中国でアステラス製薬の社員が帰国直前に空港で拘束されたことは記憶に新しいところです。駐在歴20年以上のベテランだったとされますが、それがあだになった可能性もあります。企業の駐在員で20年は異例中の異例で企業側がその社員の代替を見つけられない場合に時折起こりうるケースです。アステラス製薬は中国での売上比率が全体の5%を超える水準で今後、強化していく最中であり人脈やビジネスの流れを含め、この方が熟知していたのだろうと察します。

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が、海外に於いて熟知とは必ずしもビジネスだけではなく社会生活全般のこともあるし、ビジネスの実態として表にしたくないこともあるでしょう。拘束された理由は定かではありませんが、中国当局が長らく目をつけていたことは確実でこの駐在員の動向はスパイされていたとみています。一部のメディアで報じられている当てつけ説ではないと思います。何らかのトリガー(引き金)があったはずです。

中国で拘束された方のケースとして、日中青年交流協会の元理事長だった鈴木英司氏が6年間拘束された状況をまとめた書籍、「中国拘束2279日 スパイにされた親中派日本人の記録」が4月24日に発売になりました。その書籍はぜひ手に取ってみたいと思いますが、中央公論が氏とのインタビュー記事を載せています。それを拝見する限りかなり無理な理由付けで日本に帰国する際に空港で拘束されています。

空港で拘束されやすい理由は所持品がそこにあるためとされます。アステラス社員のケースでもパソコンなど情報データを持ち歩いているはずだという理由でそのタイミングだったのでしょう。鈴木氏は中央公論のインタビューで自分の行動が詳細に把握されていたことに驚いたと述べています。〇月〇日の〇時の飛行機に乗ったとか、中国の〇〇地方に今まで何回行ったなどを把握していたというのです。

ところで香港出身の女子学生が日本の大学に留学中、用事があって香港に戻った際、当局に拘束され、パスポートを取り上げられ、日本で就学を継続することが出来なくなる事件も起きました。このケースではこの学生が日本入国にSNSで香港独立を訴えており、反政府的な意見を述べていたものでそれを中国当局は全て監視し、国家安全維持法違反で逮捕されたものです。

これらは中国だけではありません。あまり話題にならなかったのですが、ロシアのウラジオストックの日本領事館の領事が昨年秋、ペルソナノングラータで国外退去命令を受けています。嫌疑の理由は詳細には分からないですが、ロシアのFSB(連邦保安局)が同氏の動向をチェックしており、想像ですが中ロ関係の情報を入手したのではないか、とみています。ロシアはKGBの後継としてFSBとSVR(対外諜報庁)に組織替えしています。FSBとSVRの情報収集能力は極めて高く、逆に知り過ぎているがゆえに情報という嫌疑はどうにでもなるという感じがします。