もう一人の友人の臨床医は研究に割く時間も予算も限られるようになってきて寂しいと言っていた。大学病院でお金を稼ぐことが優先されれば、基礎研究の力は低下し、優秀な人材が育たなくなるのではと心配だ。研究、特に基礎研究は将来への投資だ。しかし、がんの分野のように「がんの本態を知る」と言い続ければ、基礎研究への期待は色あせてくる。

そして、日本では、すぐに「欧米では・・・」という議論となり、競争主義が重要視されるようになってきた。しかし、競争主義が機能するには「公平で公正な評価」が必要となる。相も変わらずボス社会が続き、公平からはるかにかけ離れた身内優先の評価に基づいて配分される予算制度も変わらないままでは、若者の気持ちは荒んで、頑張る気持ちも萎えてくる。

冒頭の記事に「・・・課題が解決していない」とあったが、現状の日本では百年たっても解決しないだろう。病変(課題の根源)を特定しないで、治療ができる(対策を練る)はずもない。若手研究者の能力を見出し、持っている能力を育てることのできるシステム、公平で公正な評価制度、中長期的なビジョン、そして、AMEDの解体などが急務であろう。

PS:4月20日のNatureのNews欄に「White House to tap cancer leader Monica Bertagnolli as new NIH director」とあった。フランシス・コリンズ博士が退任された後1年以上空席であったNIH所長がようやく決まりそうだ。彼女は6か月前にNCIの所長に就任したところだったのでビックリだ。

彼女とは、理化学研究所ゲノム医科学研究センターが米国の薬理ゲノム学グループと共同研究をしていた時からの知り合いで、シカゴ大学在職時も米国の臨床試験グループの一員として一緒だった。ユタ大学医学部を卒業していて、大腸がんを研究している点でも接点が多い。

編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。