煙に巻くような答弁を繰り返す市長
このような不公平なプロセスを示して田中議員は、こう疑義を呈した。
「交付資料の配布は、提案資格者のみになっていたのはなぜですか。ほかのプロポーザルでは、すべての事業者が公募開始段階から知ることができたのに。なぜ提案資格者だけだったのか、理由をご説明ください。
また、7日間で交付資料を読み、提案提出というスケジュールでした。これはとても短い期間で、より良い提案をしたくても時間的余裕すらないのではなかったかと考えますが、どうしてこんなに短い期間としたのでしょうか」
それに対して渡辺芳邦市長の答弁は、驚くほどそっけないものだった。
「交付資料の配布は、提案資格者のみについて、一般社団法人まちづくり木更津からの市民交流スペースの在り方に関する提言を、提案資格者のみに交付したものでございますが、当該資料につきましては、あらかじめプロポーザル実施要領のなかで提案し、各社へ交付したものとしていたものでございます。
7日間という短い期間としたのはなぜかとのお尋ねでございますが、プロポーザル実施にあたり、当該資料につきましては、実施要領で示したとおり、提案書類提出期限や7日前の提案資格確認結果通知書と併せて交付したものでございます」
この答弁の意味がわかる人は、どれくらいいたのだろうか。
あとから交付した資料は、市は直接関与しておらず、外部の任意団体から提言を受けたものだったので、一般公開は控え、提案資格者のみに交付した。7日間という短い期間となったのも、あらかじめ定めていた実施要領のとおり進めただけ――。
およそこのような意味だと推察するが、圧倒的に言葉足らずだ。意図的に、はぐらかすような回答をしたとしか思えない。答弁者は端から誠実に質問に答える気などなく、適当にお茶を濁してこの場をやりすごせばいいと思っているかのように筆者は感じた。
田中議員は続けて、事業者の選定評価にかかわった審査会の委員が全員、市の職員であることを指摘。審査会メンバーの構成や、ほかの業務では28日間という長い募集期間がある一方で、極端に短い募集期間があるのはなぜか、どうやってその期間を決めているのか、また公募の方法や、公募期間が短くても多数応募の理由、公募方法の選択など、さまざまな角度から、今回の不自然な事業者選定疑惑の真相に迫ろうと、木更津市の事業者選定にまつわる質問を次々と繰り出したのだった。
しかし、それらについても渡辺市長は、あらかじめ決められたとおりに進め、評価・判断は担当部署によって適切に行われているとして、なんの問題もないとそっけない回答に終始した。何を聞かれても糠にクギ、のれんに腕押し。国会での閣僚の答弁を聞いているかのような、意味のないやりとりが続いたのだった。
約15分の一般質問と約14分の答弁を終えると、いよいよ一問一答。それまでは、田中議員が先に一括して質問事項を読み上げ、それらについて渡辺市長も一括して回答するスタイルだったのが、更問いができるここからは逃げ場がなくなるはず。
冒頭から田中議員は、まちづくり木更津がCCCに作成させた疑惑の報告書を、なぜ一次審査を通過した提案資格者のみに配布したのか、また、その資料交付から提案書締切まで7日間しかなかったことを、再度取り上げた。
市長が指摘したとおり、あらかじめ決められた実施要領とおりに進めたことは重々承知しているが、そもそもなぜそのようなタイムチャートで進めたのかと、詰め寄ったのである。
答弁に立ったのは、渡辺市長ではなく篠田貞明市民部長だった。
「ご質問の提案資格者のみに交付した資料は、一般社団法人まちづくり木更津から提言を受けたものであり、市の方針が記されたものではないため、実施要領等とは一緒に公表いたしませんでしたが、参考資料として提案資格者のみに交付したところでございます。実施要領、仕様書等の配布から24日間ございましたので、提案を準備する期間といたしましては確保されていたものと認識しております」
篠田市民部長は、市長とほぼ同じ内容の答弁を繰り返したあげく、「実施要領、仕様書等の配布から24日」あり、提案書を準備するには十分な時間があったはずだとウソぶいた。
田中議員の鋭い追及
さすがに、ここまで事実をないがしろにされると、我慢の限界。それまで淡々と質問していた田中議員も、もどかしさを隠せない口調で、こう反論したのだった。
「実施要領等の配布から24日あったというのは、交付資料の(1)と(2)です。資格者のみに交付資料として配布し、(3)の提言が(交付から提案締切まで)7日間しかなかったでしょと指摘し、何度も質問しているんですが。この今ね、おっしゃったのは、(3)は、参考資料として交付したと答弁されました。でも実施要領には、『参考資料』ではなく『交付資料』と明記してありました」
矛盾点をつかれても、ひたすら同じ回答を繰り返し、論点をずらした話を持ち出してくる執行部。このやりとりを傍聴していた市民は、さぞやゲンナリしたに違いない。この間も、刻々と時間だけが無駄に経過していくのだ。
「噛み合わない答弁ばかりなので、次の質問をします」と田中議員は、この話題を早々と切り上げて、CCCが先に作成していた疑惑の報告書では調査されていなかった、中央公民館のアンケート結果について質問。市が独自に行った利用者全員のアンケート集約結果も、市民交流プラザの計画に取り入れていただきたいと、釘を刺したのである。
クライマックスは、突然やってきた。今回、新庁舎に設置予定の市民交流プラザの基本計画と基本設計の業務を、CCCとコンソーシアムを組んで最優秀事業者に選定された株式会社船場について田中議員は、この後、こう切り込んだ。
「公募型プロポーザルにより市庁舎整備支援業務委託は、令和4年3月31日まで株式会社船場が行っていました。そしてその後、令和4年度当初予算に庁舎整備事業費359万7000円とありました。資料請求をしたところ、随意契約でした。確認のため質問します。契約先はどこで、その契約はいつからいつまでなのでしょうか」
展示会や商業施設の内装を手掛ける船場は、木更津市の新庁舎本体の整備にかかわる支援業務を令和3年5月に受託している。この支援業務とは、新庁舎整備を担当する事業者選定にかかる事務を、市に代わって担当する裏方業務のこと。
船場が、その業務を庁舎整備事業者が選定された令和3年12月以降も、もし継続していたとなれば、建物本体の整備事業者から設計データなど内部情報に接する立場にありながら、令和4年9月にCCCとコンソーシアムを組んで新庁舎内に設置予定の市民交流プラザの委託事業に応募したことになる。市庁舎の事業者選定に関与しながら、自ら一事業者として関連業務に応募したとなれば、利益相反ではないのかとの指弾は免れないだろう。
この質問に伊藤浩之総務部長は、こう回答した。
「お尋ねの業務委託名は、木更津市庁舎整備支援業務。委託契約の相手方は、株式会社船場。履行期間は令和4年4月22日から令和5年3月31日まででございます」
クイズの回答なら、ここでピンポンと鳴ったはず。これにより船場は、庁舎整備にかかわる裏方業務を、翌年の令和4年度も担当していたことが確定。つまり、他の応募事業者がアクセスできない、新庁舎本体の設計データなどの情報もふんだんに持っていた船場が、その地位・立場を利用して、CCCと共同で市民交流プラザの基本計画・基本設計を提案して選定されたのかとの批判も、俄かに現実味を帯びてくる。
田中議員は、こう畳み掛ける。
「令和4年度の予算審査特別委員会の答弁では賃料とか、またスケジュールなどを詰めていくが、それぞれ協議する支援や契約書の作成の支援また庁舎のレイアウトをある程度検討していきたいので、その支援をもらうということで業務委託を発注したいということでした」
市は、「契約書の作成の支援」のあと「また庁舎のレイアウト」の支援を船場に担当してもらうことを明言しており、船場が「庁舎のレイアウト」情報に触れる立場にあることを、はからずも認めてしまった形となった。
さらに田中議員は、船場がこの事実を隠蔽していたことにまで言及。
「資料2のBをご覧ください。これが市民交流プラザの受託候補者となった株式会社船場の提出した業務実績です。ここには庁舎整備支援を随意契約で船場が履行中であることが書かれていません」
もはやどんな言い訳をしようとも、万事休す。船場は、裏方として市の業務にかかわりながら、その事実を隠して関連業務に応募していたのである。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

提供元・Business Journal
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