心理戦拡声器システム

大型拡声器が発明されたのは意外と古く、1920年代のことです。1929年(昭和4年)にアメリカで超巨大拡声器の販売カタログが出ています。これは電気装置のアンプではなく、圧縮空気を使った機械式の拡声装置で、カタログには4マイル(約6.4km)先まで鮮明に聞こえると書いてあります。トラックや船舶などに搭載できるため移動も自由自在で、外部電源なども必要としない利便性の高い機材だったので、世界的にけっこうな数が売れていたようです。

そして、第二次世界大戦になると各国がこの超巨大拡声器を使うようになりました。写真はスペイン内戦にドイツ軍が持ち込んだイタリア製の放送車で、30キロ先まで聞こえたそうで、スペイン人はドイツ軍のプロパガンダ攻撃に心を折られて負けました。
そもそも、ドイツ軍の戦術では、攻撃とは機動と射撃と衝撃及びこれが指向する方向によって効果を発揮すると教えており、敵に衝撃を与える有効な手段として超強力拡声器が使用されました。
選挙カーはすでに第二次世界大戦前に、有効な戦術として活用されていたのです。

世界の選挙事情
このように非常に効果が高いため、選挙カーは世界中で使用されてきました。しかし、現在では騒音規制の対象となったために減りました。それでも、日本をはじめとして韓国、台湾、ポルトガル、アフリカ諸国など現在も使用している国はたくさんあります。アメリカでも1970年に禁止になるまでは普通に走っていました。
欧米で選挙カーが消えた理由には以下のようなものがあります。
・騒音規制
欧米では、選挙活動であっても騒音規制の処罰対象となります。欧米ではWHOの勧告を基準に65デシベル以下に法規制されていますが、日本の拡声機暴騒音規制条例では85デシベル以下で諸外国より規制がゆるくなっています。日本の公職選挙法の定める選挙運動又は政治活動のための拡声機の使用は、法規制の対象外なので音量は無制限です。
・戸別訪問
欧米の選挙では日本では違法な戸別訪問が認められています。直接本人の目の前で、複数人で取り囲んで連呼するほうが選挙カーより効果的です。実際に欧米の選挙では、戸別訪問を行う選挙スタッフをどれだけ確保出来るかが当選を左右しています。
・広告制限が無い
欧米ではテレビ・ラジオ・ネットなどでの広報活動が無制限に認められており、メディアに支払う莫大な広告料が当選を左右しています。一方、日本では候補者が個別にメディアの広告枠を購入して宣伝することが禁止されており、規定された政見放送以外できません。日本ではインターネット活動すら、かなり近年まで禁止されていました。
逆に言えば、日本では欧米で一般的な選挙活動が禁止されているため、選挙カーという半世紀以上前の手段に頼らざるを得ないとも言えるのです。
