ただ、グラーツ市に共産党市長が誕生した時も書いたが、グラーツ市の有権者が突然、マルクス主義に目覚めたのではない。グラーツ市民の最大の悩みだった住居問題で共産党候補者はきめ細かい政策を訴え、有権者の心を勝ち取ったのだ。ザルツブルク州議会でも同じことがいえる。「緑の党」から出て共産党に入党した党筆頭候補者、ケイ・ミヒャエル・ダンクル党首は選挙後、「わが党は住居問題の解決について有権者に話してきた。他の政党も同じように主張していたが、選挙が終われば忘れられてしまう。わが党は今後5年間、住居問題の解決に全力を投入する考えだ」と述べていた。

ザルツブルク州議会選をまとめる。国民党が政権を維持したが、他の政党との連立が必要だ。パートナー探しで苦労するだろう。ニーダーエステライヒ州のように、国民党と自由党の連立政権が発足する可能性は排除できない。ただ、自由党の政権参画には国民党内ばかりか多くの国民も拒否反応が強い。一方、社民党は党首選を控えていることもあって、党内は結束していない。ザルツブルク州のダビッド・エガ―社民党代表はパメラ・レンディ=ヴァーグナー現党首ではなく、そのライバルのブルゲンランド州のハンス・ペーター・ドスコツィル知事を支持している、といった具合だ。党内が結束して政権を奪回するといった体制からはほど遠い。

オーストリアの政界の台風の目はやはり極右自由党だ。早期総選挙の実施を想定に早々と党内はキックル党首と結束している。ザルツブルク州議会選では極左「共産党+」も躍進した。コロナのパンデミック、ウクライナ戦争の勃発、それに伴うエネルギーや物価・住居費の高騰に直面している有権者はその困窮、不満、抗議をぶつける相手として、極右の自由党と極左「共産党+」に抗議票を投じたことになる。両党は政治信条が全く異なる政党だ。オーストリアの社会が分裂し、過激な方向に走り出そうとしている兆候と受け取れるかもしれない。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。