音楽の都ウィーンから高速道路を使って3時間半でザルツブルクに着く。ザルツブルクといえば、音楽好きな読者ならば、あの“神童ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの生地”とすぐに思い出されるだろう。ちなみに、モーツァルトはそのザルツブルクを余り愛していなかったともいわれた。

ザルツブルク州議会選で投票を終えたハスラウアー州知事夫妻(2023年4月23日、オーストリア国営放送サイトから、写真オーストリア通信バーバラ・ギンドル氏撮影)
また、ザルツブルクを舞台としたジュリー・アンドリュース主演の映画「サウンド・オブ・ミュージック」を日本人の読者は1度は観られただろう。「エーデルワイス」や「ドレミの歌」など美しいメロデイーが流れる中、ナチス・ドイツ軍に追われたトラップ大佐ファミリーの物語だ。米国人が好きな映画だが、映画の舞台となったオーストリアの国民はこの映画を余り知らないし、好きではないといわれる。曰く、「いかなる理由があろうとも、故郷を見捨てて逃げていった家族」といった思いが強いからだ。
前口上はこれまでにして、今回のテーマ、ザルツブルク州議会選挙の話に入る。同州議会選の投開票が23日、実施された。オーストリア連邦議会選ではなく、小国の州議会選挙となれば関心がさらに薄いだろうと考えたので、ザルツブルクのことを少し紹介してからテーマに入ろうと考えた次第だ(汗)。
オーストリアは特別州のウィーン市を入れて9州からなる。5年毎に実施される州議会選はドイツの州議会選(16州の連邦州)でもそうだが、連邦議会、政治の行方を占うバロメーターと受け取られる。特に、次期総選挙が控えている場合、その行方を知るという上で、国民の関心は高まると共に、メディアも積極的に報道するのが通例だ。オーストリアの場合、早期解散などがなければ、5年の任期満了を受けて来年秋に総選挙が実施される。
ザルツブルク州議会(定数35)の投票結果、ヴィルフリード・ハスラウアー州知事を擁立する与党・国民党が得票率(暫定結果30.37%)を失ったが第1党をキープし、第2党には極右自由党が約25.75%と得票率を増やして躍進。第3党には社会民主党が得票率を減らし約17.87%に留まった。ここまでは大方の予想通りだったが、サプライズは「共産党+」が11.66%の得票を獲得して州議会で5議席を獲得し、環境保護政党「緑の党」(8.20%)を抜いて第4党に入ったことだ。投票率は70.9%(前回2018年65%)。
オーストリアでは終戦後から現在まで共産党が連邦議会で議席を獲得したことがない。共産党は議会政党ではない。現在もその立場は同じだ。国民は冷戦時代、ソ連・東欧共産党政権の実態をよく知っているので、共産主義に幻想などを抱かない。しかし、2年前、オーストリア南部シュタイアーマルク州の州都でオーストリア第2都市、グラーツ市(人口約25万人)の市議会選で共産党市長が誕生した。ザルツブルク州議会選では共産党は州議会議席を獲得したのだ。もちろん、初めてのことだ。初めてのことが大好きなメディアは極右「自由党」の躍進がかすんでしまうほど共産党の躍進を大きく報道したところもあった(「オーストリア第2都市で共産党市長誕生」2021年9月28日参考)。