世界に13億人以上の信者を擁するローマ・カトリック教会の総本山、バチカン教皇庁に「報道の自由」があるか否かは興味深いテーマだ。バチカンニュース(独語訳版)には聖職者の未成年者への性的虐待問題が大きく報道され出した。最近では、ドイツ教会フライブルク大司教区の聖職者の性的虐待調査報告が大きく報道されたばかりだ。10年前、20年前には考えられなかった「報道の自由」さだ。

聖職者の性的虐待問題が発覚したドイツのフライブルク大司教区の教会(バチカン・ニュースから、2023年4月19日)
聖職者の性犯罪問題はバチカンにとって恥ずかしい内容であり、出来れば内々で解決したいテーマだろう。実際、バチカンは過去、聖職者の未成年者への性的虐待問題を隠ぺいし、関係者を人事異動して不祥事が外に漏れることを徹底的に抑えてきた。バチカンの官製メディアが、どこそこの、どの教区で過去、何件の聖職者の性犯罪が発生した、などと報じることは少なくとも20年前には考えられなかった。
バチカンのメディアが閉鎖的だった時代、当方は反バチカン関係者のメディアや教会から脱会した元聖職者が書いた本などからバチカンの内情を探った。例えば、ウィーンには元神父ルドルフ・シェルマン氏が発行していた「キルへェ・インテルン」と呼ばれるカトリック教会情報誌があった。当方はシェルマン氏とインタビューし、様々なバチカン情報を得た。その点、冷戦時代、ソ連・東欧共産政権圏から亡命してきた政治家や反体制派活動家から共産圏内の内情を聞き出す取材方法と同じだ。
問題は、亡命者や反体制派メディアの情報は玉石混合で、新しい事実がある半面、脚色され、誇張された情報も少なくなかった。バチカン情報でも同じことだ。元神父や反バチカンメディアの情報は興味深いものが多い一方、事実とはかけ離れていることも結構あったからだ。
バチカン報道では地元イタリアのメディアの活躍は大きい。バチカン・ウォッチャーと呼ばれるバチカン専門ジャーナリストがバチカン発でさまざまな内部情報を報じてきた。ベネディクト16世を悩ましたバチリークス問題(ベネディクト16世の内部文書などが盗まれ、メディアに報道された事件)ではイタリアの著名なバチカン・ウオッチャーが教皇庁内部の通報者の情報をもとに報道し、大きな波紋を呼んだ。