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「天国」と「地獄」が同居する不思議寺
苦しい階段登りの果てにたどり着く深山の瞑想寺

「天国」と「地獄」が同居する不思議寺

移り変わる山の景観を楽しみながら辿り着くチェンダーオの町は、派手な観光化とはまったく無縁だ。賑やかなチェンマイの市街地と比べると、ホッと息をつきたくなるひなびた田舎町である。

特に当てもなくゆっくりと走っているうちに、お寺の境内に迷い込んだ。

雄大な山並みが見える方に進むと、左手に大きな仏陀と守護鬼の像。その背後に、今度はお椀のような形のチェンダーオ山がどんとそそり立っているので、またもやびっくりすることになる。 

それを起点にして、右手にナーン山の女性的ななだらかな稜線が居流れ、さらにその右手に視線を移すと、チェンダーオ山系独特の奇岩の山の連なりが180度の絶景大展望を形作っている。
まるで、天国のような眺めだと思った。

満足の溜め息をついて踵(きびす)を返すと、右手前方に違和感を感じた。

ずらりと居並ぶ仏像が見守る芝生の上に、毒々しい彩色を施した異様な姿のコンクリート塑像が密集している。そう、ここはタイ人の好む「地獄寺」でもあったのだ。

かつての日本でも見られた「地獄絵」と同様に、人が悪業を働くと地獄に落ちて、さまざまな責め苦に遭うという仏教の教えを形にしたものである。一つ一つの責め苦の様子は、確かに私も子供の頃に祖父母に聞かされた記憶がある。しかし、そのあまりにもリアルな様に「これを見たタイの子供たちはうなされたりしないのだろうか」と心配になってきたほどだ。

チェンマイ近郊の知られざる別世界にバイク・ツーリング!千変万化のチェンダーオ山と秘湯土管温泉にどっぷり浸る旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

苦しい階段登りの果てにたどり着く深山の瞑想寺

チェンダーオ山ウオッチングの途中で、左手に入り込む細道を見つけた。角の看板には「ワット・トゥム・パプロン」という表示がある。

ワットはタイ語で寺院のことだ。タイによくある黄金色の派手なお寺だろうか?

そう思いつつ境内に入ると、どうも様子が違う。いわゆる、本堂が見当たらないのだ。首をひねりながら進むと、階段に突き当たった。振り仰ぐと、長い龍の胴がくねったような階段が山の上に向かって延々と伸びているではないか。

チェンマイ近郊の知られざる別世界にバイク・ツーリング!千変万化のチェンダーオ山と秘湯土管温泉にどっぷり浸る旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

ゆっくりと足を運びつつ300段までは数えたが、それから先は息が切れてどうでもよくなった。喘ぎながら、ようやく展望の開けたテラスのような場所にたどり着いた。

居合わせた僧侶の指示で靴を脱ぎ、タイル張りの綺麗な階段を登り詰めた。目の前には、巨大な洞窟をそのまま本堂に見立てた荘厳な空間が広がり、至るところを黄金の仏像が埋め尽くしている。思わず正座をして両手を合わせ、タイ式の三拝をしながら旅の安全を祈った。

チェンマイ近郊の知られざる別世界にバイク・ツーリング!千変万化のチェンダーオ山と秘湯土管温泉にどっぷり浸る旅
(画像=『たびこふれ』より引用)

奥の岩の間から出て来た僧侶に聞くと、ここは厳しい修行で知られる瞑想寺であるという。

彼の勧めでさらに回り階段を登ると、丸いテラスの向こうにほぼ360度の大展望が広がり、背後にはまたもや太陽を背負ったチェンダーオ山の蒼黒い山頂がのしかかってきた。

チェンマイ近郊の知られざる別世界にバイク・ツーリング!千変万化のチェンダーオ山と秘湯土管温泉にどっぷり浸る旅
(画像=『たびこふれ』より引用)