
第77回国連総会で核兵器のない世界を訴える岸田総理大臣(2022年9月21日)
来月1日発売予定の月刊「正論」6月号の特集「日本と核」に寄稿した。まだ発売前でもあり、詳しい内容は掲載誌に譲るが、なかで、「ロバーツ著『正しい核戦略とは何か』を監訳した専門家の発言を借りよう」として、こう書いた。
逆に現在は、核兵器を使っても全面核戦争に至らないかもしれない、人類が滅びないかもしれない、だから核を使う国が出てくるかもしれない、という危険があります。核が使われるかもしれない「核の影(ニュークリア・シャドウ)」がチラつく状況下で行われる通常戦争をいかに抑止するか、あるいはいかに戦うかということが求められていて、まさにウクライナ戦争はその例の一つなのです。(多田将著『核兵器入門』星海社新書所収の鼎談から村野将の発言)
ここでは、上記鼎談を所収した『核兵器入門』(星海社新書)を紹介したい。まずは版元グループの宣伝を借りよう。
本書では物理学者である著者が「もし東京に核兵器が落ちたらどんな被害が出るのか」などのシミュレーションをはじめ、核兵器をめぐる物理的・軍事的・政治的側面を広く解説し、最終章では政治学者の小泉悠氏、村野将氏と核兵器をめぐる最新の国際情勢について議論しました。(講談社BOOK倶楽部)
まさに「核兵器の物理的メカニズムから核開発の歴史、国際政治における核のあり方まで網羅した核兵器入門書の決定版!」(同前)である。
なかでも、「もしも東京に核兵器が落とされたら」と題した「序章」は、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射をはじめ、「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の下に置かれることになった」いま(国家安全保障戦略)、必読のミュレーションとなっている。
とはいえ最新刊であり、ネタバレは避けたい。そこで以下、第4章「核兵器と国際政治 多田将×小泉悠×村野将」の鼎談から、小泉悠専任講師(東京大学)の発言を引こう。
北朝鮮なんかは正直なのではないかと私は捉えています。彼らはできることの幅がそんなに大きくないので、かなり宣言政策と実際にやることの一致が大きいのではないでしょうか。つまり北朝鮮の場合は最小限抑止なんですね。(中略)例えばニューヨークに核弾頭が落ちて一〇〇万人死ぬとか、そういうレベルの損害を与える能力を持っていれば事実上抑止として機能するだろうという考え方があって、北朝鮮はそこを目指して非常に合理的に核戦力を作っていっているな、という印象を私は持っています。
もし北朝鮮がロシア的な核戦略思想をしっかり勉強したならば、日本の対米戦争協力をやめさせるために核で脅しをかけるというやり方も考えてくるんじゃないかと思います。
核攻撃が行われるかどうかは、地震とか台風とは違って、客観的にどうしようもないというものではありません。我々はやはり、核を使う相手に働きかけて核を使わせない努力はできるので、そこは決して無力感を持つべきではないと思います。