このアメリカのMMFは全額補償されるのです。つまり銀行預金のように25万㌦の縛りがありません。よって金融不安が起きるとどうしてもMMFに資金が動くのです。80年代のセービング&ローン事件の時も全く同じシナリオでした。
さて、アップルの預金サービスにより個人のマネーが大移動する公算は高いと思います。今回発表された内容はアップル利用者で且つ、アップルのクレジットカードを所有する人が対象の商品ですが、多くの人がアップルクレジットカードを申請し、預金をアップルに動かすでしょう。これはアップル社が目指す顧客の囲い込みそのものであり、ここまでの道のりは相当いばらの道だったようですが独り勝ちになるだろうと推測しています。
問題は資金はどこから来るのか、と言えばアメリカの99%の中小銀行である可能性が高く、中小銀行の預金は引き続き流出が続き、経営不安がより一層高まるだろうとみています。
また前回も触れましたがアメリカのオフィス、リテール向けのファンド、REITの銀行借り換えが出来なくなりつつあります。今回、ウィワークとカナダのブルックフィールドが持つオフィス借入が返済条件を満たさず、ディフォルトになっています。そうなるとキズモノですので満期時の借り換えは100%不可能になります。また商業不動産向け融資の27%が中小銀行によるものですが、中小銀行の預金流出に伴い、貸し出し余力が落ちるため、仮に貸したくても貸せないという事態が起きるはずです。
アメリカの金融業界の嵐は全く収まっていないということです。
ではアップルの新サービスも盤石かといえばこれもまたやや疑問はあります。1つは集めた預金をどうするのかです。多分ですが、ゴールドマンサックスが運用するのでしょう。つまり、アップルは商業銀行ではないので貸し出し業務をせず、集めた預金を利息以上の利回りで運用することを目指すはずです。その点はその道のプロのゴールドマンが担うということでしょう。
もう一つは4.15%という利率です。運用が国債などMMFか比較的安定した投資対象による運用だと思われますので当然、債券相場に左右されやすくなります。まさかゴールドマンとしてはリターン保証をしているわけではないでしょうからアメリカの経済状況とFRBの金融政策に大きく振られることになります。パウエル議長が何度も「ない」と断言している年内の利下げ転換の可能性ですが、何か重要な事態が生じるなど条件が変われば利下げがないとは言い切れません。個人的には今日明日では無いと思っていますが、半年先が見えない感じで更なる金融不安が起きないとも限らないことも考え合わせればアップルにしては思い切ったビジネスを展開したものだと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月20日の記事より転載させていただきました。