プーチン大統領が昨年2月24日、ロシア軍をウクライナに侵攻させた時、これは戦争ではなく特別軍事行動と称し、戦争と呼んだ人物は刑に処されると語ってきたが、カラムルザ氏は、「わが国の軍が隣国を侵略し、戦争を行っている」と述べ、CNNとのインタビューでは「ロシアは殺人者の政権だ」と厳しく批判したため、同年4月に逮捕された。同氏は、「犯罪者はその行為で罪を償わなければならないが、私は政治的見解のために刑務所にいる。私は暗闇がわが国を覆う日が来ることも知っている」と語っている。カラムルザの弁護士、マリア・アイスモント氏は、「裁判では数多くの法違反があった。上訴する予定だ」と表明している。

モスクワの裁判所の判決が報じられると、国際社会から非難が飛び出した。英国はロシア大使を召喚し、判決を「政治的動機」と批判。ドイツ政府は「即時釈放」を要求。国連人権委員会のフォルカー・テュルク委員は、「ロシア当局にカラムルザ氏の釈放を要請する」と訴えた。

カラムルザ氏は2015年と17年の2度、毒殺の危機に直面している。同氏の弁護士の話によれば、同氏の健康状況は良くない。彼の状態は刑務所で悪化し、時々体調が悪くなるという。同氏は反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(46)と同様、FSBの工作員によって毒殺されようとした。カラムルザ氏は、2015年にモスクワで射殺された野党指導者ボリス・ネムツォフの顧問だった。同氏は昨年、欧州評議会の名誉あるヴァーツラフ・ハベル賞を受賞している。

ちなみに、ロシアの著名な反体制派活動家、ナワリヌイ氏は2020年8月、シベリア西部のトムスクを訪問し、そこで支持者たちにモスクワの政情や地方選挙の戦い方などについて会談。そして同月20日、モスクワに帰る途上、機内で突然気分が悪化し意識不明となった。最終的にはドイツのベルリンの病院に運ばれた。ベルリンのシャリティ病院はナワリヌイ氏の体内から旧ソ連の軍用神経剤「ノビチョク」を検出し、何者かが同氏を毒殺しようとしていたことを裏付けた(「ロシア反体制派活動家の『妻』の声」2023年4月6日参考)。

欧州で記憶に残るジャーナリスト殺人事件としては、スロバキアで2018年2月25日、同国の著名なジャーナリスト、ヤン・クツィアクシ(当時27歳)が婚約者の女性と共に自宅で銃殺された事件がある。同氏は政治家や実業家の腐敗や脱税問題を調査報道することで国内で広く知られていた。同事件は欧州全土に大きな衝撃を投じた。また、2017年10月、マルタでタックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴露した「パナマ文書」の内容を報道した女性ジャーナリスト、ダフネ・カルアナガリチアさん(当時53)が車の運転中、仕掛けられた爆弾が爆発して殺された。政治家の腐敗や汚職を暴露してきた著名な報道ジャーナリストだったカルアナガリチアさんは、「マルタのムスカット首相の妻らがパナマに会社を置き、資産を隠していた」との疑惑を報じていた(「スロバキア『ジャーナリスト殺人事件』」2018年3月2日参考)。