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日経新聞4月4日の『人口と世界』というシリーズ記事において、イスラエルが先進国にもかかわらず高い出生率を誇る国として取り上げられていた。同国の合計特殊出生率は2.9、OECD加盟国の中で突出して高いばかりか、南アフリカ(2.36)、インドネシア(2.27)、サウジアラビア(2.24)、インド(2.18)といった新興国も及ばない(OECD Data, fertility rate, 2021)。

下図に日本とイスラエルの出生率の年次推移と将来予測を示してみた。1950年の両国の出生率はほぼ同レベル、それ以降日本ほどではないにしてもイスラエルも下降したが、2000年代に入るや上昇に転じ、2010年代には3.0を上回るまでに回復した。

データ出典:UN Data (Total Fertility Rate)イスラエル、日本

前回の投稿でも指摘したように、経済成長と出生率は負の相関関係にあり、先進国や経済成長著しい国は少子化に悩む運命にある。したがって、日経新聞が先進国の稀有な成功例としてイスラエルに飛びつくのも頷ける。だが、イスラエルの高い出生率には、同国に特殊な事情もあり、注意が必要だ。

イスラエルの高い出生率の要因に挙げられるのが、民族的要因と出産や子育て関連の福祉サービスの充実である(TAUB CENTER “Why are there so many children in Israel?” Feb 2019)。

前者は迫害を受けてきたユダヤ人の歴史的背景に基づく子孫温存への強い意識である。後者には子どもが病気になった時の看護休暇や育児中の短縮労働など、女性のワークライフバランス支援策が含まれる。

しかしながら、これらの要因には、イスラエル以外の国で暮らすユダヤ女性の出生率と比べてみると必ずしも納得のいく答えではないとの反論がある。というのも、西欧先進国はイスラエル以上に子育て政策が充実しているにもかかわらず、これらの国のユダヤ女性の出生率は特段高いわけではなく、他の女性たちと変わらないからである(TAUB CENTER前掲書)。