先進国を中心に金利の低い環境が長く続き、ここ数年世界中の多くの都市で住宅価格が大幅に値上がりしてきた。全体としてはまだ不動産市場は堅調と言えるが、一部のハイエンドな地域では変調の兆しがある。これは大きな変動につながるシグナルなのだろうか?

ロンドンで住宅価格の下落止まらず

ロンドンでは住宅価格の下落が続いている。英国住宅金融大手のハリファックスによると、2018年1-3月期には前年同期比で3.8%下落し、2010年初め以来の大きな下げ幅となった。2017年10‐12月期も0.7%の低下となっており、前年比での下げは3期連続だ。同社の月次の数字はぶれやすいとされるが、4月も下げ基調が続いたようだ。

その他の調査でも、同様の傾向が示されている。不動産会社ライトムーブ社の調査では、5月にはロンドンの住宅価格が前年比で0.2%下落した。またアカデータ社の発表でも、4月にはロンドン地区だけが英国内で住宅価格が下落し、その下げ幅は2.5%だったという。同社によると、英国全体では、2016年に一時見られた+9%よりは緩やかになったものの、1%の価格上昇だった。

ロンドンで住宅価格が低下している最大の理由は、BREXITに備えたビジネス界の動きだ。特に、金融センターだったシティに欧州の主要拠点を置いていた多くの銀行が、EU域内の他国へと移転する計画を進めている。銀行はEUのいずれかの加盟国で免許を取得すればEU全域での営業が可能だが、英国がEUを離脱すれば、同国での免許は域内で使えない可能性があるためだ。シティで金融業界に勤める人は一般的に年収が高いため、そうした人らの国外流出は特にロンドンの高級物件に影響を与えていると見られる。

マンハッタンでも住宅価格の下げが急速

ダグラス・エリマン社とミラー・サミュエル社によると、2018年第1四半期のマンハッタンでの住宅取引額は前年同期比で25%も減少したという。これは2009年第2四半期以来の減少幅だ。また売買価格も同時に低下しており、中間価格は108万ドルで前年比‐2%となり、さらに平均価格では193万ドルで同‐8.1%となった。

買い手優位の流れは4月以降も続いているようで、別の不動産会社のレポートによれば、高級マンションの売り手は当初の提示価格よりも平均で5~16%値下げして契約しているようだ。

マンハッタンでの価格下落の要因の一つとして、昨年末に決まった大型減税の一環で、住宅ローン利子控除におけるローン総額の上限が引き下げられたことがあるとされる。また、利上げによって、住宅ローン金利が上昇していることも影響しているとみられる。

米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が発表する30年物住宅ローン固定金利は、5月23日時点で4.66%となり、2011年5月以来の高い水準となった。とはいえ、国全体で見れば住宅価格はまだ上昇しているのは英国と同様だ。

米連邦住宅局(FHA)によると、1‐3月期には50州全てと首都ワシントンで住宅価格が前年同期比で上昇した。さらに、不動産情報サイト、ジローによると、4月も上昇は続き、中間価格は前年同期比8.7%増の21万5600ドルだったという。これは2006年6月以来の大きな伸び率だ。

シドニーやメルボルンでの価格下落が顕著

オーストラリアでは住宅価格の下落基調が続いており、米不動産調査大手コアロジック社が発表した4月の豪住宅価格指数は、前月比で0.1%低下した。低下は2017年10月以来7か月連続だ。しかしここでも下げをけん引しているのは都市部で、地方だけを見るとまだ上昇傾向が続いている。都市部の下げは特にシドニーやメルボルンなどで顕著に見られ、4月は共に前月比0.4%の低下となった。

シドニーなどでの価格下落の背景には、政府による規制の強化がある。中国などからの海外資金や投機資金の流入により、シドニーの住宅価格は5年前に比べて7割ほども上昇したとされる。一般の家計には手の届かない水準となり、ついに政府は昨年、銀行に対してローン審査の厳格化を要請した。

その他、空き室のままになっている住宅の外国人オーナーに課税したり、外国人へのキャピタルゲイン課税を強化したりするなどの対策を進めた結果、外国人の買いが急激に減少したとされる。

世界的に住宅価格の下げは連鎖するのか?

英国、米国、オーストラリアなどの都市部で高級物件の価格が下がっている背景は、それぞれ異なる。ただ共通点もあって、それは金利が上昇傾向にあるということだ。英米はすでに利上げを進めており、2016年8月以来金利を据え置いているオーストラリアでも、次の利上げを視野にすでに銀行間の調達金利は上昇を始めている。

こうした動きに関連して、国際通貨基金(IMF)が4月に非常に興味深い分析を発表している。主要40か国と主要44都市を通じ、住宅価格がシンクロして動く傾向が強まっているというのだ。

その背景として、世界的な低金利の中、グローバルに動く投資家の資金が世界各地の不動産市場にも流入していることを指摘している。特に利回りや安全性が魅力的な都市部において、そうした傾向が強いという。

IMFの分析が正しいとすれば、今後「世界的な低金利」という環境が変わっていけば、これまで多くの国で住宅価格が上昇してきたのとは逆に、世界的にシンクロして価格は下落するリスクがあるということだ。香港や東京などではまだ価格下落は見られていないようだが、注意しておくべきなのかもしれない。

文・北垣愛/ZUU online

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