ロシア軍のウクライナ侵攻はドイツを含む欧州全土に大きな衝撃を投じた。特に、ロシア産の原油、天然ガスに大きく依存してきたドイツは環境にやさしい再生可能なエネルギー源の利用に本腰を入れてきた。ドイツのエネルギー政策の大転換を担当するハベック経済相はエネルギーのロシア依存からの脱却をモットーに再生エネルギーの利用を推進し、原子力エネルギーは全電力の約6%~7%を供給してきた。

ところが、操業中の3基の原発操業停止日の4月15日が近づくにつれ、国民の間で「原発なしでわが国のエネルギーは本当に大丈夫か」といった不安の声が高まってきたのだ。

ドイツの世論調査研究所(Forsa)がテレビ局RTLの依頼を受けて実施した調査によると、ショルツ政権の原発操業停止決定を支持している国民は回答者の28%に過ぎず、43%は原発操業を支持、25%は既に閉鎖された原発の再開に賛成している、という結果が判明した(調査は2023年4月5日から6日にかけ1001人を対象に実施。統計誤差の許容範囲はプラス/マイナス3%)。

もう少し詳細にみると、新しい連邦州(旧東独)では「政府の決定は正しい」は22%、旧連邦州(旧西独)は30%といずれも過半数を大きく下回っている。政党別によると、「緑の党」では65%が賛成。SPD有権者は40%、FDPは20%がそれぞれ支持。一方、最大の野党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)は15%に過ぎず、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は4%だった。

「原子力エネルギーなしで電力供給は大丈夫か」の質問に対して、全回答者の51%は「大丈夫とは思わない」と過半数を超えている。政党別にみると、「緑の党」支持者の81%は「原子力エネルギ-なしでも電力供給は安全」と考え、SPDは59%、FDPは43%、CDU/CSUは38%、Afd支持者は18%と、「大丈夫と思う」割合が少なくなってくる。

「稼働中の3基の原発の操業延長」について、操業延長の支持は全体で43%(旧東独では47%)。政党別では「緑の党」も28%と比較的多くの有権者が延長を支持。SPDは38%、FDP49%、CDU/CSUは56%と、操業延長支持は増えている。

原子力エネルギーの操業停止で失われる4ギガワットの電力を石炭火力発電所で補填しようとしていることに対し、CDUのイェンス・スパ―ン議員は、「石炭火力発電所はCO2を排出する環境キラーだ」と批判し、「最後の3つの原子力発電所の耐用年数を少なくとも2024年末まで運用予備として延長すべきだ」と求めている。それに対し、ハベック経済相は、「最後の3つのドイツの原子力発電所は4月15日に停止する。脱原発はもはや不可逆だ。それに代わる再生可能エネルギーの供給確保は前進している」と述べている。

原発を一旦操業停止した場合、再開は容易ではない。核燃料の確保から再導入まで時間がかかるため、即再操業にはならないからだ。ドイツでは4月15日を期して、ロシア産天然ガス・原油依存脱却を第1弾目とすれば、脱原発という第2弾目のエネルギー政策の大転換が実質的に始まるわけだ。

隣国フランスでは小型原発の開発などが活発化し、欧州連合(EU)の欧州委員会は昨年、「ガスおよび原発への投資を特定の条件下で気候に優しいものとして分類する」という通称「EUタクソノミー(グリーンな投資を促すEU独自の分類法規制)」を発表したばかりだ。

ショルツ連立政権は2021年12月、政権発足直後、「再生可能なエネルギーからより多くのエネルギーを生成する国になる」と表明し、その課題を「巨大な使命」と呼んでいる(「EU『原発は気候に優しいエネルギー』」2022年1月3日参考)。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。