例えば、イランが自国領土と宣言しているアブムサ島は、ペルシャ湾東部に浮かぶ島でホルムズ海峡入り口付近にある。UAEも領有権を主張している。島は古代からイランの一部であった。20世紀に入ると、イギリスが支配した後、同国は1968年、島の統治権を放棄。その後、イランが同島を再併合したが、UAEとの間で島の主権問題でこれまで紛争してきた経緯がある。

国営サウジ通信が公表したコミュニケによると、アラブ諸国は台湾をめぐる中国の「一つの中国」原則、香港の統制政策を支持。同時に、人権問題の政治化を拒否することで合意している。

例えば、中国では新疆ウイグル自治区のウイグル人弾圧問題、サウジでは同国の反体制ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏(59)殺人事件で国際社会から激しく批判されてきた。サウジは中国共産党政権と同様、人権分野では大きな問題を抱えている。同国は欧米メディアで人権弾圧を糾弾されるたびに「内政干渉」と反論してきた。中東の盟主サウジと中国共産党政権は人権問題では共同戦線を敷く余地があるわけだ。

中国の王毅外相は昨年3月24日~30日、6カ国の中東(サウジ、トルコ、イラン、UAE、オマーン、バーレーン)を歴訪し、中国と中東諸国との外交関係強化に動き出してきた。

中国は過去、中東諸国との外交関係で躊躇してきたのは、それなりの理由がある。サウジを含む中東はイスラム教という宗教が大きな影響を持つ地域であり、人権問題で共同戦線が出来ても、遅かれ早かれ宗教問題で中国共産党政権と衝突する可能性があるためだ。

例えば、ウイグル自治区のウイグル人の多くはイスラム教徒(主にスンニ派)だ。そのウイグル人への弾圧を中東諸国はいつまでも黙認できないし、中国共産党政権の宗教政策を批判せざるを得なくなるだろう。ちなみに、トルコは中国から逃げてきたウイグル人を受け入れている。

そして今回、習近平主席はサウジを訪問し、そこでイランに対し、同国の島の領土問題でUAEと協議するように助言した。同主席にはシーア派のイラン側が中国側の提案をどのように受け取るか、といった配慮が欠けていたわけだ。アブラハムの3大宗教が広がる中東地域での中国の外交の前には、常に「宗教」というハードルが控えている。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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