一人のイスラム教スンニ派の信者が「ユダヤ教徒やキリスト信者とは何とかやっていけるが、絶対一緒にやりたくない相手はシーア派信者だ」と語ったことがある。イスラム教はスンニ派とシーア派に分かれ、前者は多数派だ。具体的には、アラブの盟主サウジアラビアはスンニ派に属し、その中でも戒律が厳しいワッハーブ派だ。少数派の代表はイランだ。

習近平国家主席の発言に怒りを吐露するイランのアミラブドラヒアン外相(2022年12月12日、IRNA通信から)
中国の習近平主席は9日、サウジの首都リヤドで開催された第1回中国・アラブ諸国首脳会談と第1回湾岸協力会議(GCC)首脳会談に出席した。同首脳会談後、公表されたコミュニケによると、アラブ諸国と中国双方は戦略的パートナーの関係を強化することで一致したという。習近平主席は「アラブと中国の新しい歴史が始まった」とその成果を強調した。
その数日後、イランのテヘランから中国に警告ともいえるニュースが流れてきた。イランのホセイン・アミラブドラヒアン外相は12日、中国政府に対し、イラン・イスラム共和国の領土保全を尊重するよう求めるツイッターを更新した。同外相は中国語で「アブムーサ島、レッサートゥンブ島、グレータートゥンブ島の3つの島(Abu Musa, the Lesser Tunb, and the Greater Tunb)はイランの切り離せない部分であり、永遠に祖国に属する」と書いている。
何のことかといえば、習近平国家主席が湾岸協力会議(GCC) 加盟国のアラブ指導者とともに声明を発表し、上記の3島の帰属権問題についてイランとアラブ首長国連邦(UAE)両国が協議するよう促したのだ。その後、イランの外相はIRNA通信を通じて「イランの領土保全を尊重するように」と間接的ながら習近平国家主席に抗議したわけだ。
IRNA通信のイラン外相の発言を読んだとき、先のイスラム教スンニ派信者の話を思い出した。アブラハムから派生したユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3兄弟宗教があるが、イスラム教内のスンニ派とシーア派間の対立はイスラム教とユダヤ教、キリスト教とのそれより根が深いという。
習近平主席はスンニ派の盟主サウジで戦略的には同盟国のイラン(シーア派)にイランが自国の領土を宣言している3島の帰属権について、紛争中のUAEと協議すべきだと受け取られるような発言をしたわけだ。習近平主席は大国意識もあって仲介役を演じたのかもしれないが、イラン側が気分を悪くするどころか、「習近平、何を言うのか」と怒りが沸き上がっても不思議ではない。