観た人の何かと「重なる」

――映画を観ていて、魚市場の人たちとの距離感が非常に良く感じましたが、撮影をする際に何か意識したことはあるのでしょうか。

映画だけでなく、浦安魚市場で働いている人や出入りしている人に何かしら還元しなければとの思いがありました。

映像は「継続した時間」ですが、写真はその瞬間瞬間で余白があるので、複合的だったりコレクティブ(集合的)だったりしやすいです。昔の写真もたくさん出てきたので、写真集という形で共有することにしました。

また、映画内でも登場しますが、魚市場内に写真を展示したり来場者が記入できるノートを設置したり、プロジェクターとスクリーンを設置して映像を見てもらったり、映画以外にもいろいろと実施しました。それをやったことで、魚市場の人たちと距離が縮まった部分もあると思います。

 

――歌川監督から見て、「浦安魚市場」はどのような場所に映りましたか。

ステレオタイプをなるだけ持たず、あくまで「場所」で起きていること、その面白さを自分で受け止めて撮っていく中でいろいろなことを考えさせられました。

映画を観ていただいた方の感想やコメントで気付かされることもありますが、この映画は「小さな場所」についての映画なのだと思っています。時代の流れの中で、小さな商店や場所が無くなっていったり苦しくなっていったりすることが映っている。特に年配の人からすると、いろいろなものと重なって見えている部分もあって、それがある種のノスタルジーを感じさせるのかもしれません。

「魚市場」の映画が口コミで上映4週間延長&連日満席のワケ 『浦安魚市場のこと』監督インタビュー昭和の頃の浦安魚市場(提供:Song River Production)

印象的だったのは、横浜で上映した際に中年男性が涙ながらにいろいろとお話ししてくれたことです。その方のご実家が八百屋を営んでいたそうで、「ダブった」と言っていました。魚屋さんの話をしているのですが、いろいろなものと重なって見えて広がっていく。自分が思っていたことが旅立って、全然違うところに行って様々な形で楽しんでもらえるのが映画の醍醐味ですが、横浜の事例はまさにそれで、とても嬉しかったです。

 

――映画館以外での上映にも積極的だそうですね。

岩手県・宮古市の「魚菜市場」で上映会を実施したところ、すごく好評でした。まずは市場内で漁業関係者向けに上映しましたが、初めは「面倒だ」と言っていた人たちも、いざ映画を観ると、上映後には内容について熱く語り合っていました。その後、一般向けにも上映会を実施し、多くの人に観てもらうことができました。

海外に住んでいたこともあるので強く感じるのが、日本は「海が近い」ということ。ほとんどの都道府県が海に面しているし、「海なし県」も現代では流通が整っていて、新鮮で美味しい魚が食べられる。つまりは、自分のルーツや生活と漁業が結びついている人が多いということだと思います。そうした人たちが多くいる地域でも上映していきたいので、「魚菜市場」のように映画館ではないところでの上映を増やしていけると嬉しいです。教育映画ではないのですが、観た後にいろいろと語り合うには良い映画なのではないかと思います。