スンニ派盟主のサウジとシーア派代表のイランの両国の和解はイスラム教の統合という大きな構図から見るならば歓迎すべきだが、その両国間に調停役として介入してきた中国共産党政権はマルクス主義を奉じる無神論国家であることを忘れたなら、バチカンの二の舞を踏むことになる。

例を挙げよう。中国共産党政権下で宗教の弾圧は進行中だ。現地から流れてくる情報によると、キリスト教会の建物はブルドーザーで崩壊され、新疆ウイグル自治区ではイスラム教徒に中国共産党の理論、文化の同化が強要され、共産党の方針に従わないキリスト信者やイスラム教徒は拘束される一方、「神」とか「イエス」といった宗教用語を学校教科書から追放するなど、弾圧は徹底している(「中国共産党政権が宗教弾圧する理由」2019年7月9日参考)。

習近平時代になって、「宗教の中国化」が進められてきた。「宗教の中国化」とは、宗教を完全に撲滅することは難しいと判断し、宗教を中国共産党の指導下に入れ、中国化すること(同化政策)が狙いだ。その実例は新疆ウイグル自治区(イスラム教)だ。100万人以上のイスラム教徒が強制収容所に送られ、そこで同化教育を受けている。

習主席は、「共産党員は不屈のマルクス主義無神論者でなければならない。外部からの影響を退けなければならない」と強調する一方、「宗教者は共産党政権の指令に忠実であるべきだ」と警告している。具体的には、キリスト教、イスラム教など世界宗教に所属する信者たちには「同化政策による中国化」を進めているのだ。

中国新疆ウイグル自治区のウイグル人は主にイスラム教徒でスンニ派が多い。イラン(シーア派)にとってはイスラム教の兄弟だ。そのウイグル人を中国共産党政権は弾圧し、強制的に再教育キャンプに送っている。イランのライシ大統領は2月14日から3日間訪中したが、ウイグル人の弾圧に対して一言も習主席に苦情を申し出ていない(イランにとって、国連安保理常任理事国5カ国とドイツを加えたイラン核合意(共同包括的行動計画=JCPOA)の再建と制裁解除、北京からの貿易、農業、インフラなどの経済支援が狙いだ)。

サウジはイエメン内戦を停戦に導くためには2016年以来外交関係が途絶えてきたイランとの関係正常化は急務だ。イエメン内戦ではイランの支援を受けたシーア派フーシ派の反政府勢力と、亡命したスンニ派大統領アブド・ラッボ・マンスール・ハーディーの軍隊が戦っているが、実質的にはサウジとイランの代理戦争だ(サウジはイランの中国追従路線に従うべきではない。さもなければ、イランと同様、イスラム教国は名ばかりで無神論国家・中国共産党政権の強権政治の傘下に入ってしまう危険性が出てくる)。

欧米諸国は習近平政権が「世界の覇権」を目指して政治、経済、軍事力を強化してきていることを目撃してきた。一方、イスラム教国が多い中東・湾岸諸国は共産主義の洗礼をまだ受けていない。宗派間の戦いは体験済みだが、無神論国家との戦いには経験が乏しいのだ。

スンニ派イスラム教徒が多数派を占める世界最大の石油輸出国であるサウジと、核計画を推進するシーア派のイランとの間の和解は、数十年にわたり紛争と対立が続いてきた中東地域の「バランス・オブ・パワー」を再形成する可能性がある。

中国外務省の毛寧報道官は、「中国は中東・湾岸地域の安全と安定に貢献したい」と述べ、「中国は中東における和解、平和、調和のための力である」と強調している。中国共産党政権は欧米諸国以上に時代の潮流を先読みしているのだ。

2022年11月14日習近平国家主席とバイデン大統領 中国共产党新闻网より

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。