黒田氏は「10年続けた非伝統的金融政策の効果があったと、ほどんどの世界中の経済学者が認めており、欧米の中銀総裁も認めている」とも主張しました。国内の経済学者の多くが異議を唱えているので、「世界中の経済学者が」と居直ったのでしょうか。「世界中の」中に日本の学者は含まれていないかのようです。
異次元緩和の開始直後から問題を提起していた日銀ウオチャー、加藤出氏(東短リサーチ)がこう指摘しています。「米FRB(中央銀行)は20年6月、YCC(長短金利操作付き量的緩和)的な長期金利ターゲットはやるべきでないとの結論をだした。国債金利を低位に抑えていると、財政ファイナンスに取り込まれてしまうというのです」と。
黒田氏のいう「欧米の中銀総裁たちも認めている」は事実に反する。非伝統的な新しい政策手段をとる場合は「期間を区切って、効果や弊害を点検しながらやる」というのが国際常識です。FRBは点検した結果、利上げに転換したのです。そうした不都合な事実に黒田氏は触れない。
大規模な金融緩和、超低金利を続けていると、市場機能の喪失、経済の新陳代謝の停滞という罠にはまる。効果がでないのに「効果がでるまで続ける」というのが黒田日銀でした。日銀は効果の検証らしきものをしていない。「日銀は政府の子会社」と安倍氏に言われた日銀が公正な検証をできるはずはないのです。
さきの加藤氏は、2002年以来の5年間ごと(総裁の任期期間)の実質経済成長率を国際比較し、順位を調べました。速水総裁の時は先進国中32位、福井総裁は20位、白川総裁は21位、黒田氏の第1期は27位、第2期は32位です。
32位というのは先進国の最下位です。10年間でGDPの成長率は平均0・5%です。その国際比較はドル建てでしますから、円安(黒田時代は1㌦=80円台→130円台)になると、ランキングが落ちます。異次元緩和の狙いの一つは円安誘導だったとされます。円安でさらに日本経済の国際的地位は下がったのです。こうした国際比較は黒田氏に眼中にない。
「異次元緩和は株高をもたらした」という人がいます。1万3800円(13年4月)から2万7000円(23年4月)に上がりました。これも国際比較してみると、米国の場合、1万4800㌦から3万3400㌦になり、日本以上の値上がりです。しかも、金融緩和政策は1,2年前に引 き締めに転換しています。こうした国際比較を黒田氏はしないし、応援団の識者らもしません。
黒田氏は「政策には常に効果と副作用がある」と、指摘しました。薬剤の場合でいう「副作用」は「効果」に比べてずっと小さいのが常識です。黒田緩和の場合は「副作用」と呼ぶには弊害があまりにも大きい。「効果」があったとしても、弊害のほうがはるかに大きい。
財政状態の極度の悪化、市場メカニズムの脳死、経済の新陳代謝の停滞、ゾンビ企業(死にたい企業)の延命、「ゼロ金利はゼロ収益の温存」(吉川洋氏)などの「副作用」を指摘されています。
異次元緩和は「副作用」というのはあまりにも大きな禍根を残し、「構造変容をもたらした」というほうが適切だと私は思います。植田新体制は「構造変容」を正常化しなければ、財政金融状態も正常化できまないのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。