というのも、過去にそのコワーキングスペースを辞めた人達の一部と話す機会があり、共通して聞かれたのが「イベントがある日は“変な人達”が来てうるさく、仕事に集中できない」という声だったからです。

そのコワーキングスペースは、もともと「会員同士の交流を促すイベントを積極的に行っているのが持ち味」と自負していました。

ところが、会員だけでイベントを行っているうちはまだ良かったものの、そのうち「会員ではない外部からの参加者を呼び込むイベント」を開くようになったのがきっかけで、しだいにマナーに欠けた人たちも集まるようになり、利用者の層が低下していきました。

騒音を立てたり、イベントに参加せず仕事をしている会員に「何をされてるんですか」「仕事ばっかりしてないで、僕らみたいにパーっと飲んで人生を楽しむのが大事ですよ」と絡むという事も頻発していたようです。 (例えば塾で受験勉強をしている時に、こんな人達が周りにいたら嫌じゃないでしょうか?)

本来、コワーキングスペースというのは「仕事をしやすい環境を提供する」のが第一の役目のはずなのに、「利用者同士が交流する場にする」という副次的なコンセプトに囚われた結果、環境の悪化という本末転倒な結果を招いているのでした。

たしかに、いわゆる“異業種交流会”のような形のイベントを催すことは、やり方によっては会員のビジネスにとってプラスになることもあるでしょう。

ところが、筆者が今回話題にしているコワーキングスペースのまずいところは、「本来の客層とはかけ離れた、集めても意味がない層を集めるイベント」を開いてしまっていたことです。

例えば、“自由な生き方を選ぶフリーターの交流会”や、“特定の趣向を持った人対象の合コンイベント(これについてはもはや仕事の文脈と全然関係ない)”などなど。

このようなイベントが頻繁に開かれれば、真面目に仕事をやりたい人にとって居辛くなってしまうのも無理はありません。

真っ先に去っていったのは、他の会員からも人気があった優秀層が真っ先に離脱してしまったことでした。

元々このコワーキングスペースには、一部の業界でそれなりに有名であったり強い影響力を持った優秀なフリーランスの会員が複数名在籍しており、彼らと同じ空間で仕事ができることに魅力を感じて入会してきた会員も多くいました。

ところが、こういった“プチインフルエンサー”層ほど「集中できる静かな環境」に強くこだわる傾向が強く、「最近はうるさいイベントがあって仕事に集中できないから他の場所を探します」と退会。それに続いて、その人物と会いに来ていた他の利用客も居続ける理由を失くし、次々と去っていきました。

ここまで記載した事態について、スペースの運営陣もまったく把握していなかったわけではなく、一部のメンバーは「静かな環境作りに注力しよう」と声をあげていたようです。 が、それまでイベント開催を担当していたメンバーたちは、やはり自分たちが努力してきたことを「間違っていた」ことにするのが受け入れられない心理が働いたのでしょう。

一部のメンバーからあがった声を黙殺して、結局「これまではイベントへの力の入れ方がまだまだ足りなかった、今後はもっとイベント開催を強化しよう」という方針で運営を続けているようです。

個人の場合もそうですが、集団になると特に、「従来大事にしてきた方針を批判し、あらためる」という事は難しいものです。

(誤った解釈をベースにした)自分の「強み」に固執してしまい、間違った方向に努力してしまうことは、よく観察してみればあらゆる組織で見受けられます。

今回話題にあげたコワーキングスペースなどは、もはや対策などせず「放っておく」ほうがマシであり、「努力するほど事態が悪くなる状況」の典型例と言えます。 が、やはり調子が悪い時ほど「あえて何もしない」という決断をするのが怖くなってしまうものです。

「弱みを克服するより強みを伸ばす」ことが良しとされる昨今ですが、スランプに陥ってしまった時こそ「新しいことに手を出す」前に、まずは「それまでの取り組みで誤っていたことはないか」を見直すことが肝要ではないでしょうか。