アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「ユダヤ人、キリスト教徒、イスラム教徒にとって聖なる時期であり、平和と非暴力の時期であるべきだ」と指摘している。そこで3宗派の宗教行事、「ラマダン」、「過越祭」、「復活祭」について少し説明する。
「ラマダン」はイスラム教徒の五行(信仰告白、断食、礼拝、喜捨、巡礼)の一つだ。イスラム教徒は日の出から日没までの間、断食し、身を清める(ラマダン期間は3月21日~4月20日まで、国と地域によって1日程度の違いはある)。友人のイスラム教徒は「ラマダンの期間は心が清まる時だ」と述べ、ラマダンの宗教的意義について説明してくれた。日が沈むと家庭や独り者はモスクで他の信者と共に断食明けの食事を取る。
ユダヤ教の「過越祭」はユダヤ教の春の4つの祭のひとつで、「ペサハ」と呼ばれる。旧約聖書「出エジプト記」に記述されている。エジプトで400年間余り、奴隷として苦役していたユダヤ人を解放するために神はモーセを使わしたが、エジプトの王ファラオは拒否した。そこで神は10の災いをエジプトに下す一方、子羊かヤギのうちから傷のない1歳の雄を取って屠り、その血を家の入り口の両柱と鴨居に塗るようにユダヤ人に命令する。その夜、神様はエジプトの国を巡り、人と家畜の初子の命を取るが、家の入り口の血を見たときは、神様はその家を過ぎ越した。ファラオはユダヤ人がエジプトから出ていくことを許す。それ以来、この日はユダヤ人にとって記念すべき日となり、主の祭りとして祝われてきた。
最後に、キリスト教の「復活祭」(イースター)は、イエスが十字架上で人類の罪を背負って亡くなった3日後、復活し、死を乗り越えて神のみ言葉を伝えていったことを祝う行事だ。今月9日にあたり、ローマ教皇が世界に向かって発信する。イエスが十字架上で亡くなる日は聖金曜日と呼ばれる。ちなみに、ウクライナ正教会の復活祭の昨年4月24日、ゼレンスキー大統領はイースターのビデオメッセージの中で、「偉大な神よ、ウクライナ人の願いである平和な日々が訪れますように。そしてあなたと共に永遠の調和と繁栄が訪れますように」、「偉大で唯一の神よ、私たちのウクライナを救ってください!」と祈っている(正教会の今年の復活祭は4月16日)。
エルサレム問題は、政治的観点からだけではなく、その宗教的背景を考慮して3宗派の統合を図る方向で解決すべきだだろう。預言者洗礼ヨハネは、「自分たちの父にはアブラハムがあるなどと、心の中で思ってもみるな。お前たちに言っておく、神はこれらの石ころからでも、アブラハムの子を起こすことができるのだ」(「マタイによる福音書」第3章9節」と諭している。エルサレムを管理できる者は神の前に謙虚にその御心をなす者のものだ、という意味になるわけだ。
「ラマダン」、「過越祭」、そして「復活祭」と一連の宗教行事が続く中、イスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒たちの宗教心が否が応でも高まる時だ。この期間、武器や石をもって相手に立ち向かうのではなく、アブラハムを「信仰の祖」とする兄弟宗教であることをもう一度思い出したい。そして「ラマダン和平」や「イースター休戦」ではなく、「アブラハム和平」の実現だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。