ペルー・イカ州沿岸のリゾート地「Paracas(パラカス)」。その南側に広がる「Reserva Nacional de Paracas(パラカス国立自然保護区)」は、1975年9月25日に制定されたペルー初の自然保護区のひとつです。広さは、パラカス半島から南のアンタナ海岸までの約33万5000ヘクタール、65%の海洋エリアと35%の海岸砂漠エリアで構成されています。1992年には、世界的に重要な湿地帯及びそこに生息・生育する動植物の保全促進を目的とする国際条約「ラムサール条約」にも登録されました。
今日は、そんなパラカス国立自然保護区の魅力を余すところなく伝えてくれる「Centro de Interpretación Paracas(通称:ビジターセンター)」をご案内しましょう。
目次
いざ、パラカス国立自然保護区へ
ペルーは世界に17あるメガダイバーシティ国家の1つ
いざ、パラカス国立自然保護区へ

パラカス国立自然保護区(以下:自然保護区)は、前回のたびこふれ「ペルーのリトル・ガラパゴス、パラカスのバジェスタス諸島」にも登場したSERNANP(国家自然保護区管理事務局)が管理しています。
まずは自然保護区の入り口にあるコントロールポイントで、保護区への入場料を支払いましょう。この入場チケットは、ビジターセンターに入る際にも提示しなくてはいけないので、大切に保管しておいてくださいね。またアルコール類や発泡スチロールなど使い捨て容器に入った食べ物や、ペット等の保護区内への持ち込みは禁止されています。

ビジターセンターはコントロールポイントから2kmほど先へ進んだ所にあります。センターのすぐ向かい側には、パラカス文化の土器や織物を展示する「Museo de Sitio Julio C. Tello de Paracas(パラカスのフリオ・C・テーヨ付属博物館)」がありますが、今回は時間がなく見学を断念。またいつかご紹介しますね。

2011年7月オープンの「Centro de Interpretación Paracas(通称:ビジターセンター)」。ここでは自然保護区の概要や古代におけるパラカス半島の様子、保護区内に生息する多様性あふれる動植物のさまざまな生態系や、環境問題などについて詳しく知ることができます。

ビジターセンターにはガイドはおらず、個人でゆっくり見て回るスタイルですが、解説はスペイン語と英語で表記されているので問題ありません。今回は取材ということで特別にJICA(独立行政法人国際協力機構)から派遣されている青年海外協力隊員の大河原さおりさんと、観光セクターの専門家であるホルヘ・カバニージャスさんにお話を伺うことができました。
ペルーは世界に17あるメガダイバーシティ国家の1つ

この世界地図で緑色に塗られた17の国々は、地球上に存在する生物のうち、7割を超える動植物や昆虫が生息しているメガダイバーシティ(超多様性)国家。そのうちのひとつがペルーです。
イギリスの著名な植物学者David Bellamyは、『惑星の破滅という事態が起こるとして、その救出と再構築のためにたったひとつの国を選ぶことができるとしたら、私は間違いなくペルーを選ぶだろう』という言葉を残しています。それほど生物多様性に秀でたペルーにある国立自然保護区、パラカス。この場所がいかに大切な場所か、お分かりいただけるでしょう。

こちらは石炭紀(3億5920万年~2億9900万年前)のパラカス半島の様子を描いたもの。現在はすっかり砂漠になってしまった海岸エリアも、かつては緑あふれるジャングルのような場所だったんですね。エリオプスと呼ばれる原始の両生類の体長は約2m、巨大トンボは羽を広げると約75cmにもなったそう。パネルの左下に描かれている昆虫は古代の巨大ゴキブリで、体長はなんと25cmもあったみたいですよ。25cmのゴキブリ、想像するだけでゾッとします。

パラカス半島のラグニージャスと呼ばれる海岸で発見された化石。これらの化石から、かつてこの辺りには植物が多かったこと、さまざまな貝類が生息していたことが分かっています。

ラグニージャス海岸で2007年に発見された化石から復元した、3600万年前の巨大ペンギンのInkayacu Paracasensisと、鋭い歯を持つ海鳥の仲間、Pelagornisの模型もありました。Inkayacu Paracasensisの体長は1.5m、土壌や餌に含まれる豊富なミネラルの影響で、お腹の毛は赤茶色だったようです。
パラカスの古代動物たちがこうも大型だったのは、それだけ周囲に餌となる魚介類が豊富だったこと、さらにその魚介類自体も今よりもっと巨大だったことに起因していると説明してくれました。

パラカスは8種類の動植物生息地を擁しています。波のない穏やかな入り江にはペルー国旗の色のもととなったフラミンゴが、砂泥の多い海岸ではChorloやPlayeroと呼ばれる渡り鳥をはじめ、耐塩性のある汽水植物が生息しています。また砂浜には、GaviotínやGaviotaなどのカモメ科の海鳥やオタリアのコロニーがあり、岩場はペンギンやオットセイの領域になっています。
また環境教育ゾーンでは「地球上の酸素の約60%は(植物プランクトンを含む)海藻が生み出している」と解説し、海洋生態系の保護の大切さを訴えています。

2階では渡り鳥の飛来ルートや、自然保護区に生息する野鳥たちの名前と生態について紹介しています。北米で繁殖した渡り鳥の一部は、越冬のため10月ごろ南下。ペルーを始めとする南アメリカ各地で雛を育て、4月ごろにまた北へと戻っていきます。
「パラカス」とはケチュア語で、「砂の雨(パラ=雨、カス=砂)」という意味。風の強いパラカスでは、強風のたびに砂が舞って「砂の雨」が降るのだとか。ひどい時は自然保護区内の道路がまったく見えなくなることもあるそうです。そんな時、地元の人は「今日はパラカスだね」とか「今日は風が強いからパラカスがくるよ」のように、地名でもあるこの単語を挨拶代わりに使うと教えてくれました。
人間にとっては過酷ともいえる自然環境ですが、この自然保護区には哺乳類36種と鳥類216種のほか、海藻類(317)、陸生植物(54)、環形動物(109)、軟体動物(194)、海洋節足動物(209)、陸上節足動物(129)、魚類(168)、両生類(10)、その他無脊椎動物(101)を合わせ1,543種類もの動植物が登録されているんです。一見何もない砂漠エリアに、これほど多くの命が息づいているとは驚きですね。