台湾で4年に一度の全国地方選が行われ、中国に近いとされる野党、国民党が勝利、与党、民進党の大敗を受けて祭英文氏は党主席を辞任(総統は継続)する事態となりました。まだ結果が出たばかりで、これから様々な分析が出てくると思いますが、限られた情報の中で私の思うところを述べたいと思います。

まず、今回の敗北は当初から予想されていたもので21の首長のポストは民進が5,国民が13などとなっていますが、どちらかというと国民党が強かったというより民進党が弱かったというのが印象です。

HUNG CHIN LIU/iStock

表向きの選挙の争点はやはり国内問題で物価とコロナ対策が主軸だったと理解しています。両方ともうまくいかなかった、これが結論ですが、最近の世界中の選挙を見て、物価問題でうまく乗り切ったケースはほとんどない訳でこれは不幸だったと言わざるを得ません。

コロナ対策については今でも日々1-2万人の新規感染者が出ていることが民衆目線で不満視されています。これについても、では中国のようなゼロコロナ対策が良いのか、と言えば個人的にも全く同意できず、日本でもコロナのコントロールには苦慮しています。つまり誰がやってもこの二つの問題の対応は困難を極めただろうと思うのです。

一方、私はそのような問題は実際は表向きではないか、という気がします。根本的に中国本土とのかかわり方について台湾世論は長年二分化しており、一方で、あまり表立ってそのことを表明しない社会が生み出した混とんが存在しているように見えるのです。

アメリカでは政治の話を食事の席でするな、と言われますが、日本でもよく考えてみれば職場など自分の周りの人達がどの政党を支持しどのような主義主張か、案外わかりにくいものです。それでも日本は平和な国なのでどのような主張をしてもそれでトラブルになることは少ないと思いますが、台湾の人は場合によりすべてを失うほどのリスクがあります。

当地にいる香港や台湾出身の方々と話していると「一夜にしてすべてを失うリスク」を非常に恐れています。中国の政治的ポジションは突然180度転換することはいつでもあるのです。近年でもアリババや学習塾産業、大手不動産業者、アメリカに上場しようとしたIT企業などがやり玉にあがりました。彼らにとってはそんなのを潰すのは赤子の手をひねる様なものです。

それ以上にトラウマのように今でも残っているのがやはり文化大革命ではないかと思います。さすが、戦時中の話や中国共産党と国民党の争いまで遡ると生き証人が少ないのですが、文化大革命を横目で見た人はまだまだ多く、あの鮮烈な記憶は忘れることができないのです。とすれば台湾の人は政治思想についてはなおさら黙らざるを得ないと思うのです。私が親しくしている台湾の方々にその話を振り向けても一切返事は来ません。かわされるのです。