次に、論文において公表されているデータを見てみます。
JAMAの論文「Spontaneous Abortion Following COVID-19 Vaccination During Pregnancy 」です。
この研究はケースコントロール研究なので結果はオッズ比で示されます。p値の記載はなく、95%信頼区間のみが記載されています。結果は、adjusted odds ratio 1.02 (95%CI, 0.96-1.08)でした。95%信頼区間が1を跨いでいれば「有意差なし」です。論文の結論は、「コロナワクチンにより流産の発生率は上昇しなかった」と表現されていました。
再び思考実験をします。
ワクチンによる発生率を10,000件/100万人接種とし、フィッシャーの正確確率検定によりodds ratioと95%信頼区間を計算してみます。計算には「R」を使用しました。p値による判定と95%信頼区間による判定は表裏一体ですので同じ結論となるはずですが、念のため確認してみます。
結果は、odds ratio 1.08(95%CI, 0.999-1.17)でした。結論は、「流産の発生率の有意差はなかった」となりました。
更にワクチンによる発生率1,000件/100万人接種でも同様に計算してみます。
結果は、odds ratio 1.01(95%CI, 0.93-1.09)でした。結論は、「流産の発生率の有意差はなかった」となりました。
まとめますと、1,000~10,000件/100万人接種という非常に高い確率であっても、「流産の発生率の有意差はなかった」という結論になってしまうのです。つまり、コホート研究やケースコントロール研究では、「流産の発生率の有意差はなかった」という結論になっても、流産に関してワクチンは安全だとは言えないわけです。なお、参考までに書いておきますが、10代の心筋炎の発生率は、モデルナで男性の場合、18件/100万回接種です。
次に、偶発性の検証について考えてみます。
日本で接種後に報告されている流産を見てみます。厚労省のWebサイトで公開されている疑い症例一覧より、接種日より流産発生日までの日数のグラフを作成しました。なお、重複例は削除してあります。
全部で20件でした。このうち接種後30日以内に発生したのは8件でした。発生が接種後7日以内に集中することはなく、偶発的分布に近い分布でした。
この分布よりは、コロナワクチンと流産は関連がないように見えます。ただし、症例数が少なく、すべての流産が報告されていることが担保されているわけではないため、無関連と断定することはできません。また、流産が接種後に短期間に集中して発生せずに、長期にわたり少しずつ発生しているのであれば、偶発性の観点からも立証することは難しいことになります。
【まとめ】 「コホート研究やケースコントロール研究において有意差を認めなかったから、コロナワクチンによる流産を心配する必要はない」とする主張は科学的とは言えない。何故ならば、1,000~10,000件/100万人接種という非常に高い流産発生率でも「有意差なし」となってしまうからである。