その仕組みとは
光熱費の支払いは、前月に使った分の請求額が毎月銀行口座から直接引き落とされる「ダイレクト・デビット」方式にしている方が多いだろう。一方、前払いメーターが設置されている家庭もある。これは「クレジットを買う」ことでガス・電気代を先払いする形だ。
プリペイド型の携帯電話や交通カードに似ている。電気やガスを使うほどにクレジットは減っていくので、専用キーやカードなどを支払い専門サービス「ペイポイント」、「ペイゾーン」などに持って行き、クレジットを買う。これを前払いメーターに挿入し、クレジットを補充する。オンラインでも支払いは可能だ。
ダイレクト・デビット方式では、月に一度、まとまった金額が一挙に引き落とされ、生活が不安定になる場合もある。払えるときに数ポンドを払う方が都合がよいと考える人もいる。
ただ、年間で比較すると前払いメーター利用者の方が割高の光熱費を払っているともいわれている。ガス電力市場監督局(Ofgem)によると、前払いメーターを設置した家庭は、2019年時点で電気とガスを合わせると780万戸に。
消費者保護組織「Citizens Advice」の推定によると、クレジットがマイナスになってしまった人は昨年1年間で320万人に上り、200万人以上が少なくとも月に1度は電気・ガスの供給を止められていた。
光熱費の支払日から28日を経ても支払いがない場合、事態を打開するための方法の一つとしてエネルギー供給社は電気・ガス法に基づいて前払いメーターの設置をすることができる。ただし、利用者にとって設置が安全で使いやすいことが条件で、強制設置には裁判所の令状が必要となる。
障がいがある人などの「ぜい弱な利用者」は対象外となり、クレジットの不足による供給停止は「最後の手段」であるはずだった。
筆者は、前払いメーターの仕組みを今回のタイムズの記事で初めて知った。テレビのニュースで「食事を取るか、暖房を取るか」で悩む人が紹介されていたが、その意味がようやく分かった。
「使う分だけ払う」仕組みだと、ガスを料理に使うのか、それとも部屋を暖めるために使うのかの二者択一の選択に迫られることがある。まだ余裕があると思っても、病気になって支払いをするために小売店に出かけられなかったり、うっかり支払いを忘れたりすると、ガス・電気が止まってしまう。心身への負担が大きそうだ。
700万を超える顧客を持つブリティッシュ・ガスの広報担当者によると、同社の前払いメーター制の顧客は150万戸に上り、昨年1年間で20万の前払いメーターを令状を使って強制設置したという。
「タイムズ」紙の報道を受けて、Ofgemは全てのエネルギー供給会社に前払いメーターの強制設置を一時的に停止させた上、ブリティッシュ・ガスに対する調査を開始。前払い制への強制移行とクレジット不足後の供給停止については以前から問題点が指摘されており、これを禁止するための法案が下院で審議中だ。
英国の「前払いメーター」とは顧客が電気あるいはガスを利用する前に支払いをして使うメーター。顧客が光熱費の支払いを滞納した場合、エネルギー供給社は顧客の住宅に前払いメーターを設置できる、あるいは使用料を計測する通信機能を持つ「スマートメーター」設置済みの家庭では、これを前払いメーターに変更できる。
(「英国ニュースダイジェスト」掲載の筆者コラムに補足しました。)
編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2023年3月28日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。