新疆生産建設兵団によるウイグルの資源強奪

前回詳しく紹介した新疆生産建設兵団は、ウイグルの要地を管轄下に置いてきた。それは耕地、水源、草原、鉄道などの交通網にわたるものだ。

兵団は、新疆ウイグル自治区よりも一年前に既に設立されていた。すなわち1949年の10月、人民解放軍第一野戦軍がウイグルに入り、これが国防部隊と生産部隊に分かれた。

生産部隊の師団は、それぞれ水資源の要地に進駐した。すなわち、年間降水量が200ミリから400mmミリ程度あって、水利土木工事さえ行えば農業が可能な地域と、主な河川沿いの地域である。第1師団がアクス河、第2師団がミラン河、第3師団がキズリス河、第4と第5師団がイリ河とその流域、といった形だ。

これらの師団は、大型の国営農場の運営からはじめ、ウイグルの「紅(トマト)」と「白(綿)」と「黒(石炭や鉱物の開発)」の生産を支配した。

このように、新疆生産建設兵団は、そもそもの始まりからしても、明らかに軍事組織であった。

その後、企業活動は軍の名を伏せ「中国新建集団公司」として展開し、農業・綿花・牧畜などの農業、石炭・石油加工・機械生産などの鉱工業、各種小売・不動産・観光業などの商業を併せ持つ巨大軍事複合企業となり、海外にも進出している。

このように、ウイグルにおいては、おおむね

中央軍事委員会が石油などの重要な鉱物資源 解放軍傘下の新疆生産建設兵団が農業や工業

といった分担で、それぞれの管轄下を独占する経済支配が出来上がった。

中国は「ウイグル経済の軍事化」に成功したのだ。

「一帯一路」の要衝ウイグル

ウイグルは古来より中国と西域を結ぶ要衝であった。この地理的な重要性は今も変わらない(図)。

図 中国の一帯一路構想。新疆ウイグル自治区の首府であるウルムチが中国から西側に出入りするための要衝であることが確認できる(日本政府資料)。

「一帯一路」の「一帯」は中国語で「見渡せる限りの辺り」の意味であり、中国を中心として、全世界を一つの路で結ぶという意味であろう。

中央アジアやアフリカ大陸など、資源が豊富な発展途上国を先取りする構造は、毛沢東当時の農村を以て都市を包囲する(「農村包囲城市」)戦略の再現に思える。

欧米や日本などの民主国家が「都市」という訳だ。ウイグルは中国と世界の出入口であり、中国にとって戦略的な位置を持つ。

「一帯一路」戦略における事業にも、軍が関与してきた。例えば兵団建築工程師(第11師)が運営する企業「北新路橋(Beixin Road & Bridge Group)」は、パキスタン、アフガニスタン、および中央アジア諸国の鉱山開発や道路建設などのインフラ設備を請け負ってきた。

汚染された世界のサプライチェーン

中国はウイグルの土地と資源は喉から出るほど欲しい。すると、その場所で独自の文化、言語、そして歴史観を持つウイグル人は、「一帯一路」の邪魔者となった。

兵団が管理する強制収容所に隣接する工場でウイグル人は強制労働をさせられた。

のみならず、「ウイグルにはウイグルの人口が多い」という当然のことを、中国は問題視した。

このため多くのウイグル人が、生まれ育った故郷から、中国内地の工場などに「余剰労働力」として移された。

そして中国の工場に生産委託をしている世界の有名メーカーの製品製造に従事した。これは厳しい監視下での強制労働であった。

このようにして、いまや世界のサプライチェーンが「汚染」されている。一般の消費者は、その製品を買うことで、知らず知らずのうちに、ウイグルでのジェノサイドと強制労働に加担し、そのお金は中国共産党、解放軍、およびその傘下の企業に流れる仕組みになってしまった。

ムカイダイス ウルムチ出身の在日ウイグル人 大学非常勤講師 上海華東師範大学ロシア語学科卒。神奈川大学歴史民俗資料学研究科博士課程修了。Ismail Gasprinski 賞受賞者。『万葉集』、『百人一首』のウイグル語訳などを手がける。