強い現場力が生産性の低さを招く?
強い現場力と合わせてよく耳にするのは、「日本のホワイトカラーの生産性が低い」という言葉です。働き方改革によりもっと合理化を追求せよという議論もその一つです。
現場力の強さの一つが「締め日」。日本企業では当たり前ですが、SAPを使っている企業では締め日を前提としたオペレーションはまずありません。
購買の入庫・買掛金計上の業務プロセスで比較してみます。
SAPを使う場合、入庫がある在庫管理担当者が「入庫/買掛金仮勘定」の仕訳を起こします。経理など買掛金担当者は、仕入れ先から請求書を受け取ると「買掛金仮勘定/買掛金勘定」の仕訳を起こします。買掛金仮勘定(入庫金額と仕入金額の差額)が残る場合、だれも調査分析しません。もちろん調査のための残業もしません。一定期間を過ぎると経理処理方針に基づき、機械的に差額を償却していきます。
一方、日本企業の場合、購買部門が締め日に「入庫/買掛金」を起こします。数量・単価差異、先方・当方責任など差額を調査し、きちんと一致させたうえで、部門の責任として経理部門にお金を動かすことを依頼します。締め日近辺では、残業などでコストをかけ、精神的にも肉体的にも苦労しているケースも少なくありません。
この場合、業務品質は当然日本企業が高いものの、リアルタイムの情報ではSAPが有用となっています。経営者が許容できる範囲での経営数値(多少の誤差があっても)がリアルタイムで収集できるのであれば有用と考えるのが欧米流の経営の考え方です。
不正発見などの統制や会計・税務を重視し、必ず正しい経営情報(貸借を一致させた数値)を求めるが日本流の考え方です。
働き方が変わるとERP導入のハードルは低くなるけど...それでよいの?
考え方の違いは、社員の働き方に対する考え方の違いです。長期雇用を目指している日本企業と違って、海外ではジョブホッピングが当たり前です。業務品質を社員に求めてもすぐに退職してしまうと無駄な投資になります。経営者にとって、社員(オペレーター)は、求められたこと(職務記述書の記載されたこと)だけをきちんとやってもらえればよい存在にすぎません。SAPなどで徹底的にシステム化し、マニュアルに沿って誰でもできるような雇用関係を構築できれば、コスト(人件費)も不要になります。
日本の経営者や社員が、欧米流の考え方で、極端に言えば、「社員はデータ入力装置に過ぎない」と割り切れるような社会になったらERPの導入のハードルは低くなるでしょう。
非正規社員の増加や同一労働・同一賃金など昨今の働き方の方向は、欧米流の考え方を
踏襲しているといえます。労働人口の急激な減少局面を迎えている現状を考えるとやむを得ない面はありますが、筆者にはまだその方向性に確信がありません。
まとめ 内部統制構築にERP導入は有力
内部統制構築にERP導入は有力な選択肢であることは明らかであり、日本企業がその導入に苦労しているのも事実です。
色々な要因はありますが、筆者は、「現場力の強さ=業務品質の高さ」がその背景にあると考えます。海外ではスムーズに構築できるERP。日本ではとても苦労するERP。
内部統制の観点からだけでなく、「グローバル化」「リアルタイム経営」「AI/IOTなど先端IT技術」などの観点からグループ基幹システムの構築は必要不可欠です。
しかし、「社員にどのような働き方を望み、提供するのか」が今日本企業に求められているのではないでしょうか。
参照
[1]出所:IT委員会研究報告(日本公認会計士協会)
「重要な虚偽表示リスクと全般統制の評価」1P
https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/1-10-0-2-20140729.pdf
この記事は株式会社識学の運営する「識学総研」から同社の許可のもと転載したものです。