ミサイルがロシア製であり、発射地がロシア領土内からとなれば、NATO憲章5条に基づき、NATO軍は加盟国のポーランドの要請を受け、同国の主権防衛のために集団的自衛権の行使としてロシア軍と軍事的に対峙する事態が出てくる。

ロシア側は否定しているが、ロシア軍が意図的にミサイルをNATO加盟国に着弾させた場合だ。考えられるシナリオは、①NATO側、特に米国の出方を調べるため、②バリのG20首脳会談でのロシアの孤立化に対するロシア側の怒りの爆発、③ウクライナからの避難民を受け入れる一方、ロシア批判を展開するポーランドへの威嚇、等々だ。

一方、ミサイルがウクライナから発射された場合、①誤発射、②ロシア軍との衝突を回避し続けるNATO軍を戦争に巻き込むため、の2通りが考えられる。ウクライナのクレバ外相は、「わが国が発射したことはあり得ない」と主張し、ゼレンスキー大統領は、「紛争は著しくエスカレートしてきた」と警告を発している。

16日に入って西側軍事筋では、ウクライナ軍のロシア製迎撃ミサイルが間違ってポーランド領土に落ちたという説が濃厚となっている。ロシア軍は15日、90発以上のミサイルをウクライナに向かって撃った。それに対し、ウクライナ軍は地対空ミサイルで迎撃したが、その迎撃ミサイルの1発がポーランド領土に入って今回の惨事となったという説だ。詳細な経緯や原因は不明だ。

ウクライナ戦争はウクライナとロシア間の2カ国間紛争だが、戦争の責任は侵略したロシアにあることは国際社会でほぼコンセンサスがある。G20のバリ首脳会談にプーチン大統領は参加せず、ラブロフ外相が代わりに出席したが、同外相はロシアが世界から孤立化していることを強く感じただろう。同外相は16日、モスクワに帰ったが、プーチン大統領にはいい情報しか伝えないだろう。独裁者は世界から批判され、追放される前に、最側近から騙される運命にあるわけだ。

話は飛ぶ。米航空宇宙局(NASA)は、地球を脅かす小惑星から防御するダーツ計画(二重小惑星方向転換試験)を開始し、9月26日、天体の動きを変える実験に成功したことはこの欄でも報告した。NASAによると、太陽系には数十億の小惑星が存在し、地球から観測できる宇宙空間でも約2万7000個の小惑星が特定されている。それらの地球近傍天体(NEO)が地球に衝突する可能性は皆無ではない。NEOの動向は人類が完全には予測できない“Acts of God”(神の行為)と呼ばれてきた(「天体の動きを変えた人類初の試み」2022年10月13日参考)。

戦争は当事国の利害が関与し、指導者の政治的思惑などが絡む人間の行為だ。今回のミサイル問題も偶発としても人間の業だ。その意味で、戦争は人間の責任領域に入る。ただ、Covid-19のパンデミック、ウクライナ戦争、食料・エネルギー危機、地球温暖化に伴う洪水,旱魃と立て続けに続く深刻な事態に、単に人間の業の結果だけとは言い切れないものを感じるのだ。

モーセ時代の「エジプトの十災禍」や「ハルマゲドンの戦い」といった宗教的な世界をここで示唆するつもりはない。人類が歴史上初めて天体の軌道を変えることに成功した2022年は天文学的にも歴史的な年だ。地球を取り巻く歴史の動きが加速してきているのではないか、と漠然と感じるのだ。100年単位で動いてきた歴史が圧縮してここにきて動き出した、と表現してもいいかもしれない。

ウクライナ戦争が関係国の努力で停戦を迎えるか、想定外の展開で大危機を迎えるか、現時点では予測できない。ウクライナ戦争は大きな山場を迎えていることは間違いない。今回のミサイル問題はそれを予感させる出来事だ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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