■熊野の自然と歴史を体いっぱいに感じる
●三県境にかかる秘境「瀞峡」へ
吉野熊野国立公園の中、和歌山県・奈良県・三重県の三県にまたがる大渓谷「瀞峡(どろきょう)」は、巨岩や奇石が並ぶ景観が美しいスポット。
「瀞峡めぐり川舟クルーズ」に乗れば、太古の昔から変わらない大自然の姿を川の上から見学することができる。
神話に出てきそうな荘厳な眺めに圧倒されるスポットだが、雨量の少ない日が続いたため川の水位が足りず今回は川舟クルーズが運行中止に。
クルーズができなかったのは残念だが、奈良県側にある瀞ホテルのそばから大渓谷を見学することができた。
●世界遺産の道を歩く「熊野古道 大雲取越」へ
さて。熊野古道がどんな場所なのか、ここまで来たなら歩かねばなるまい。前日未明に苔を湿らす雨が降ったため、この日、熊野古道のコンディションは良いとはいえない状況だった。
今回歩く「大雲取越(おおくもとりごえ)」は熊野那智大社から熊野本宮大社へ戻るために利用された道で、その名の通り雲の中を歩くような高い場所。かつて上皇や貴族、熊野詣の人々にとって、この峠は難所だったという。
登り口の「小口」から「円座石(わろうだいし)」まで約1km、標高差は200m程度の道を往復した。大雲取越のほんの序の口の部分だけにも関わらず、濡れて滑る岩や苔に大いに苦戦した。きっと杖がなければ10回は転んでいただろう。
円座石は熊野の神々が座って談笑した場所だといわれ、岩には熊野権現の薬師如来、阿弥陀如来、観音菩薩の梵字が刻まれている。苔に蒸された佇まいは神聖なものだった。
●新宮市へ戻りレンタサイクルで海沿の古道を往く
JR新宮駅の目の前にある新宮市観光案内所でEバイクのレンタサイクルを借り、海沿いをサイクリングすることに。熊野速玉大社から熊野那智大社を結んだ熊野古道は海岸沿いにある。
出発してから約15分、雄大な太平洋を望む王子ヶ浜へ到着した。せっかくなので王子ヶ浜の近くにある熊野古道・高野坂を歩く。山の中の古道とは違い、海沿いの古道も趣がある。
1時間半ほどサイクリングを楽しんだ後は、JR紀伊佐野駅から新宮駅までサイクルトレインを利用して戻ることにした。乗車賃だけで自転車も一緒に乗ることができるので、思ったより遠くに行ってしまっても安心だ。
【立ち寄りスポット】参拝前の腹ごしらえ「イル・ド・フランス」
1983年創業で古典的なフランス料理を基礎とし、日本人の口に合うよう独自に進化したフレンチが楽しめる。シェフの倉本隆之さんは大阪の名店「クリヨン」で修業した経歴を持ち、同じく厨房で腕を振るう息子の幹也さんも大阪で料理修業の後、父とともに店を守っている。
人気のランチメニュー「熊野牛ハンバーグセット」は、ハンバーグの上に世界遺産・神倉神社の雪が積もったゴトビキ岩(御神体)をイメージしたマッシュポテトと、熊野の岩盤模様をしたポテトチップなどが鮮やかにレイアウト。ハンバーグは磐盾と呼ばれる神倉神社を支える岩盤に見立てているという。
エビが香るフォン・ド・ヴォーのソースにより熊野牛の力強い旨味が引き立つ一皿だ。
イル・ド・フランス
新宮市丹鶴3-1-18
【立ち寄りスポット】ワーケーションもできる「旧チャップマン邸」
現在の住宅様式の普及に大きく貢献したといわれる文化学院の創始者・西村伊作の設計で建築された旧チャップマン邸は、国重要文化財に指定される貴重な建物。
ワーケーション専用Wi-Fiを完備しており、2階学習室または主寝室の貸館使用時に利用することができる。他の見学客の視線を気にせず、集中して仕事がしたい人には貸館がおすすめだ。料金は1部屋あたり1010〜1520円と格安で借りることができる。(※時間帯によって貸館料が変わります)
旧チャップマン邸
新宮市丹鶴1-3-2
【立ち寄りスポット】肉に魚に美味いメシと酒「熊野荘」
熊野速玉大社の参道からほど近く、純然たる日本建築の旅館「熊野荘」は、地元食材をふんだんに使った料理が人気の漁師直営の宿だ。
郷土料理の「さんま寿司」をはじめ、季節の地魚の刺身(写真右上の皿はヨコワ、サバ、大アジ、ヒラメ、サンマ寿司)、熊野牛や紀州岩清水豚に舌鼓を打つ。
地酒の太平洋(尾﨑酒造)や貴重なジャバラエキスを使ったチューハイなど、地元ならではの味が楽しめる。
熊野荘
和歌山県新宮市元鍛治町2-4-5
■まとめ
東京から新宮市へは新幹線と特急南紀を利用して5時間ちょっと。現代ですら少し遠く感じてしまう距離と時間だが、かつての人々はそれでも「熊野詣」のために全国各地から歩いて訪れていた。
それだけ人々は「救い」や「蘇り」を求めていたのだろう。そして形は変われど現代人の多くも、救いを求めて彷徨っているように思う。「参拝したら幸せになれる」、そんな単純なものではないと理解しつつも、参拝することで自分を見つめ直す良い機会を得られるだろう。
「伊勢へ七度、熊野へ三度」といわれた通り、険しくて大変な道のりを経て行く熊野は、それだけでも価値のある場所だと信じたい。
提供元・男の隠れ家デジタル
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