共和党のキングメーカー

ウクライナが必要とする間は「支援し続ける」とする米国政府の意見とは逆行する見解を示してきたカールソン氏ではあるが、彼が共和党内に持つ影響力を侮ってはいけない。なぜなら、彼の見解が共和党の見解になりつつあるからだ。

戦争開始直後、共和党支持者の多くは民主党よりウクライナ支援(ウ支援)に積極的だった。しかし、今年1月に実施された世論調査によると、共和党支持者のうちの40%がウクライナへの支援が多すぎると答えており、ウ支援が物足りないと答えた同支持者の2倍近く多い。

共和党支持者のウ支援に対して意見を大転換させたのは、敵対する政党が推進する政策に何でも反対させる「否定的党派性」の結果だという見方もできるが、反ウ支援のメガホンになっているカールソン氏の役割も無視できない。実際、昨年の中間選挙ではSNSなどで反ウ的な言説を主張するカールソン氏の動画を拡散している共和党候補者たちが散見された。

カールソン氏に影響力があるからこそ冒頭で言及した同氏からの質問状に答えるのはリスクもある。ネオコン的な見解を披露したら、番組中に袋叩きに合うかもしれないからだ。そのような計算が働いてか、バイデンのウクライナ支援が生ぬるいと批判するニッキー・ヘイリー氏や台湾独立を公言するマイク・ポンぺオ氏はカールソン氏からの公開質問に返答しなかった。

ウクライナ懐疑派は共和党の主流か?

カールソン氏の質問状に対する回答で最も注目を集めているのがロン・デサンティスフロリダ州知事だ。リベラル派を執拗に攻撃し、保守派が好む政策をフロリダ州で実施してきたデサンティス氏は共和党の中でトランプ氏に次ぐ有力な大統領候補だと目されており、共和党内の反トランプ層から期待を集める存在だった。

しかし、彼の回答は反トランプ層の大きな割合を占めるネオコンにとっては幻滅するものであった。ウクライナを支援をすることは米国にとっての重要な国家戦略的利益なのかという問いに対し、ロシアとウクライナの領土紛争に巻き込まれることは米国にとって重要な問題ではないと答えた。

デサンティス氏は下院議員時代はタカ派の政治家として知られており、クリミア併合後にウクライナに兵器を供与しないオバマ政権を非難していた。しかし、デサンティス氏は同時に支持者の選好に合わせた柔軟にスタンスを変えることもできる政治家だ。2018年に彼は自分がいかにトランプ的であるかをアピールする広告動画を作成することで、トランプ氏の推薦を獲得し、ほぼ無名の状態でフロリダ州知事に当選することができた。

デサンティス氏がトランプ氏と同調する回答をしたのは示唆的である。カールソン氏の質問状に対し、トランプ氏もデサンティス氏と同様にウ支援に否定的な見解を示した。トランプ氏とデサンティス氏は共和党予備選の世論調査では合わせて75%の支持を獲得している。また、その数字は両者が共和党支持者の動向を察知することに長けていることを考慮すれば、共和党内におけるウ支援懐疑論が共和党の主流となりつつあることを物語る。

トランプとデサンティスを合わせると、共和党の有権者および共和党寄りの無党派層の75%以上を占めている。両者とも、ロシアからウクライナを守ることは、米国の重要な利益ではないと宣言している。これは、共和党の重大な変化を確固たるものにする。

このまま共和党内でウ支援懐疑論が盛り上がれば、2024年の大統領選はウ支援に積極的な民主党とそうではない共和党の対決となり、ウクライナ政策が選挙の争点となりうる可能性がある。

米国世論の半分が同盟国の支援に消極的なのは、厳しい安全保障環境に直面している日本としては由々しき事態だ。日本としては今回のウクライナのように米国を分断させる対象にならないように、民主党だけではなく、保守系の共和党支持者にも働きかける必要性があることを痛感させられる。