次にこの問題はSVB独自の問題だったのか、という疑問です。私は否だと考えています。今回の問題はSVBの顧客がおかれている状況の変化と銀行の含み損の問題という2つの問題が共鳴したことが理由です。銀行の含み損だけに目を向ければ多くのアメリカの地方銀行は同様の問題を抱え込んでいると断言できます。債権の含み損は全米で21年末の80億㌦から22年末には6200億㌦になっています。1年でなんと78倍です。国債は満期まで持ち続ければ損はない、確かにそうです。ですが、銀行に資金需要が生じたら損しても売らねばならない事態も生じるわけです。

FRBはインフレ退治と雇用確保という点で金利の上げ下げという手段だけに頼り一定の犠牲を払いながらも剛腕、強気一辺倒で今日に至りました。が、パウエル議長は息を呑んだことでしょう。イエレン財務長官は金融システムは健全でなんら問題はないと豪語し続けてきましたが、今は180度その姿勢は変わっています。

私が土曜日のブログで強気の利上げ姿勢に疑問符をつけたのはそこが瞬時に見えたのです。よって「利上げ幅を0.25%に留める公算はまだある」と述べました。事実、来週のFOMCでは0.50%の利上げ予想は急速に萎んでおり、現状は0.25%の公算が大です。今週の消費者物価指数が想定レンジから大きくはみ出さなければ、0.25%、もしもこの銀行システムの問題がより泥沼になるようならば利上げ停止も視野に入ってきます。

株式市場全体ではプラス要因とマイナス要因が激しくぶつかり乱高下するかもしれませんが最終的にはインパクトは限定されると信じています。ただ、心理ゲームになれば全く予断を許しません。国債と金を買う動きが顕著に出ているので安全なところに資金を動かすという動きがしばらくは見られ、当面は20-21日のFOMCの内容が最重要な判断どころとなりそうです。

日本の地方銀行も同様の債権含み損問題はありますが、顧客は資金需要が大きくぶれることがない個人や中小企業が主体ですから波及は限定的だと思います。

今回の事案を一言でまとめればFRBの急激な利上げというかじ取りは企業経営が健全性を維持できないスピードで、一部が振り落とされたわけです。パウエル議長が多少の犠牲を払ってでも、とうそぶいたその見込みは過小評価ではなかったか、というのが私の今時点での見立てです。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年3月13日の記事より転載させていただきました。