犯行が起きた9日夜9時ごろ、「エホバの証人」の集会には約50人が参加していた。Fは参加者全員を射殺できるだけの銃弾を所持していたという。警察部隊が最初の発砲を聞いてから数分後、現場に到着。Fは慌てて建物の上階に逃げようとした。その数分後、1発の銃声が聞こえ、Fは自殺した。犯行時間は10分にもならない。その間、Fは135発を撃ったという。
警察側の情報によると、集会参加者約50人のうち、20人は犯行直後、建物から無事逃げることができたという。30人は集会場内に留まっていたことになる。Fはその30人の信者たちに向かって135発を乱射したわけだ。「警察隊の到着が遅れていたならば、もっと多くの犠牲者がでたかもしれない」と受け取られている。
宗教団体の集会中に乱入して、銃を発射した事件といえば、ニュージーランド(NZ)のクライストチャーチで2019年3月15日、極右過激派テロリストが2カ所のイスラム寺院(モスク)を襲撃し、集会に参加していたイスラム教徒51人が死亡、49人の重軽傷者を出した銃乱射テロ事件を思い出す。また、フランス北部のサンテティエンヌ・デュルブレのローマ・カトリック教会で2016年7月26日、2人のイスラム過激派テロリストが神父(当時86)を含む5人を人質とするテロ事件が発生し、礼拝中の神父は首を切られ殺害されたほか、1人が重傷となった事件がある。
「エホバの証人」は世界に850万人の信者を擁し、ドイツでも17万5000人の信者をもつ新興キリスト教会系団体だ。その教えは聖書の逐次解釈をもとに、根本主義的傾向がみられ、輸血を拒否し、兵役も拒否することから、さまざまな社会的な批判を受けてきた面は否定できない。いずれにしても、信者には強い終末観があるために、時には排他的な傾向がみられる。
元信者Fがどのような思いで自分が所属していた団体の集会に入り、顔見知りの信者たちに向かって135発の銃弾を発したのだろうか。Fの世界を理解するためには、「エホバの証人」から脱会した時の事情を知る必要があるだろう。「エホバの証人」から脱会した「宗教2世」や若い信者たちがその後、人生の目的を失い、絶望から自殺するケースが多いと聞くだけに、Fの犯行は一つの警鐘だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年3月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。