「お前だって論法」を繰り返しているだけでは、議論の実質で本当に優勢になることはない。ただ負けが濃厚であるがゆえに、何とか引き分けに持ち込もうとするだけの態度である。「お前だって論法」を繰り返していると、「自らの行動の正当化はできないのだな」、という印象はかえって高まる。したがって、真剣な議論の場では使うべきではない。
だがこの「お前だって論法」が、しばしば「引き分けに持ちこむ」ような効果を発してしまうことがある。
人間は感情的な動物である。アメリカのイラクにおける行動が何であったかは、ロシアのウクライナにおける侵略行動とは何ら関係がないことを、頭ではよくわかっていても、アメリカのことを憎んでいるのであれば、感情的には「お前だって論法」に簡単に流されてしまう。「ロシアも悪いんだろうが、まあアメリカだって大したものではない」という当事者のウクライナそっちのけの奇妙な「どっちもどっち」論に拘泥し、論理的には全く整合性がない感情論に流される自分を許してしまいがちである。
プーチン大統領は、さすがに老獪な独裁者である。こうした人間の感情を見透かした行動をとることに長けている。
ロシアのウクライナに対する侵略行動の違法性は、明白である。ロシアの側に論争における勝ち目はない。プーチン大統領は、そのことをよく知っている。知っているがゆえに、徹底して「お前だって論法」を貫いて、いわば負けを引き分けに転じさせる機会を狙っている。
悲しいことに、世界中で、そして日本でも、感情に流されて、このプーチン大統領の浅薄な「お前だって論法」に騙されている方々が、沢山いる。決して大多数ではないとしても、少なからぬ数の人々が、感情に流されて、自ら望んでプーチン大統領に騙されようとしている。
残念かつ由々しき事態である。特に社会で責任ある立場にある人々が、「お前だって論法」に騙されてしまっては、大変なことになる。上述のように、日本の指導者層も、G7広島サミットの際などに、あらためて試されることになるだろう。しっかりと理論武装をしておいてほしい。