独週刊誌シュピーゲルが昨年、英国のスナク政権誕生(2022年10月25日)に関連して特集記事を掲載していたが、その中で「移民家庭出身の政治家、閣僚は移民問題ではハードだ」と書いていたことを思い出した。同誌の予測は当たり、スエラ・ブレイバーマン英内相は7日、新しい不法移民法案(The Illegal Migration Bill、不法移民対策の強化案)を下院に提出したが、その内容は「ノー移民」、「移民禁止法と同じだ」といった酷評が聞かれるほど、ハードな内容だ。

不法移民法案を下院に提示したブレイバーマン英内相(2023年3月7日、英国内務省公式サイトから)
(スナク首相は祖父がインド生まれ、父親がケニア出身、母親がタンザニア出身の長男として出生。ブレイバーマン内相は父親インド、母親タミル系出身、1960年代に両親は英国に移民)。
「不法移民法案」は、正式な移民許可を有していない移民希望者、すなわち不法移民は一時収容された後、即ルワンダや他の外国の移民収容所に送られる。不法入国した前歴のある移民は英国では移民権をはく奪され、移民申請は出来ない。国外退去強制に対する上訴の可能性も制限される。そのうえ、英国は今後、合法的に移民できる移民の数の最上限を設定する、といった内容だ。
新しい「不法移民法」は国内だけではなく、他の欧州諸国や国連の難民機関、移民問題を扱う非政府機関(NGO)からも批判にさらされている。アムネスティ・インターナショナルは「英国は移民問題の責任から逃避している」と指摘し、「この法律は移民を禁止することと同じだ」と批判。野党の労働党は「法律は人権に反するもので、法として成立できるか疑問視せざるを得ない」と述べている、といった有様だ。
ブレイバーマン内相は、「私たちの海岸に数万人の不法移民を運んでくるボートを止めなければならない。わが国では不法入国した者は逮捕され、速やかに国外追放されることが世界に知られるまで、不法移民は英国に来るだろう」と述べている。ちなみに、同内相は不法移民の殺到を「侵略」と表現している。同内相自身、「不法移民対策は中途半端ではない」(No half measures)と認め、「不法移民法案は、われわれの法律と英国民の意志に違反してわれわれの海岸に何万人もの移民を運んでいる船を止めることができる」と強調した。同相によると、2018年以降、約8万5000人が小型ボートで不法入国し、2022年だけで4万5000人が英国に入国した