2日連続映画の話で恐縮だが、スターリン時代の1930年代のソ連を描いた2019年制作映画「Mr.Jones」を観た。日本語タイトルは「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」だ。監督はアグニェシュカ・ホランド、主役はジェームズ・ノートンが演じている。物語は1930年代、スターリン時代のソビエト連邦に決死の潜入取材し、スターリン共産政権の実態を暴露した英国人ジャーナリスト、ガレス・ジョーンズの姿を描いた伝記物語だ。

ホロドモール(大飢饉)90年目の追悼式に参加したゼレンスキー大統領とオレナ夫人(2022年11月26日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

欧州では当時、ナチス・ドイツの台頭を恐れる声が支配的であった一方、世界恐慌の中でも経済発展するソ連のスターリン政権に欧州の未来の姿を感じる声が強かった時代だ。ヒトラーをインタビューしたジョーンズは今度はスターリンと会見したいと考えていた。ジョーンズは当時、スターリンのソ連共産政権は「労働者の天国」という話を信じていた。世界の穀倉地ウクライナで100万人以上の飢餓者が出ているという情報を信じられなかったので、自分の目で確かめたかった。そこでソ連を訪問、西側人には足を踏む入れることが禁止されていたウクライナに潜入し、そこで飢餓で死んでいく多くのウクライナ人を目撃してショックを受ける。

スターリンのソ連共産政権の世界を「労働者の天国」と当時多くの欧米メディアが報じていたが、日本でも朝日新聞らが北朝鮮を「労働者の天国」と報じ、それを真に受けて多くの在日朝鮮人(韓国人、その日本人妻も含む)が北朝鮮に渡っていったことを思い出す。北朝鮮に入国した多くの人は日本に再び戻ることができず、自由のない苦しい生活を強いられた。

モスクワの英国大使館関係者はスターリンの意向に沿って「ソ連は労働者の天国だ」というプロパガンダを支持し、ウクライナへ入ろうとしている若いジャーナリストの冒険に警告を発した。モスクワ駐在の欧米メディア特派員もソ連共産党に飼いならされ、放縦な生活を送り、スターリンのソ連共産党政権の実態を調査報道するといった考えはなかった。

映画では猛吹雪の中、空腹で苦しむウクライナ人たち、パンの配給に群がる人々、路上には空腹で亡くなった人々の死体が転がっている。画面は白黒映画を観ているような殺伐とした風景を見せ、そこに生きるウクライナ人の姿を描いていた。ウクライナは当時から穀倉地だったが、収穫された穀物はモスクワに送られ、ウクライナ人には与えられなかった。歴史家が後日、「ホロドモール」と呼ぶ大飢餓で数百万人以上のウクライナ人が亡くなった。スターリンの食糧政策の失策による人災ということから、「スターリン飢餓」とも呼ばれている。