
画像:テスター上院議員、カウボーイ・ステートからの選出出所:Jon Tester/Flickr
共和党が反対する理由として、以下を挙げます。
資金運用者が投資家の同意なしにリベラル寄りの政治課題を追求できるようになる。 最大の投資リターンを追求するより、気候変動対策などを重視する恐れがある。 ”Woke Capiutalism”の一環である(woke Capitalism=社会的正義を目指した資本主義とは、人種問題の撤廃、女性の地位向上、LGBTQの権利促進など社会的な正義を追求する企業の取り組みを指す。転じて、こうした取り組みへの支援活動を通じ顧客を獲得する行為を含む場合も。この言葉はニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ロス・ドゥーダットが2015年に最初に紹介)バイデン大統領は当然、この決議に拒否権を発動する見通しです。ちなみに、バイデン氏が大統領に就任して拒否権を行使するならば、今回が初となります。
拒否権が発動され今回の規則変更が認められたとしても、新たな規則は、年金基金がESG基準を考慮することを義務付けるものではありません。また、民主党議員が主張するように、今回提示された規則変更はあくまでファンドマネージャーの決断に委ねられるものです。
それでも、共和党が強硬に反対したのは2024年の米大統領選を念頭にESGを標的に掲げているためです。米上下院の共和党議員はもちろん、2024年の米大統領選出馬を念頭に入れるフロリダ州のデサンティス知事まで、共和党内でESGに対し統一戦線を張る状況。今回の規則変更をめぐり、1月にはユタを始めとする25州(ケンタッキーとルイジアナ以外は全て共和党知事州)の州司法長官は、退職年金基金にESGを考慮することを認める米労働省の規則変更は法的権限を逸脱しているとして、米労働省を提訴したものです。
米上院銀行・住宅・都市問題委員会は22月12月、ESG投資に積極的な運用会社ブラックロック、バンガード、ステート・ストリートのビッグ3を”新たな皇帝”と呼び、2050年までに温室効果ガス排出量をネットゼロとする目標を推進する上で、合計18兆ドルの運用資産を活用し、影響力を行使していると批判しました。さらに下院の共和党議員は、ESGを推進する運用会社に対し、反トラスト法調査の準備を進めています。

画像:年初来リターンはブラックロックが4.5%安、ステート・ストリートは13.2%高(バンガードは非上場)出所:Tradingview
そのほか、フロリダ州やテキサス州、ウエストバージニア州、ルイジアナ州、ミズーリ州などの共和党幹部はブラックロックから数十億ドルの運用資金の引き揚げを決定。こうした流れは少なくとも15の州で受け継がれ、ESG投資の方針を持つ企業との契約や退職年金基金へのアクセスを制限するような法案提出に動いています。
共和党がESGを攻撃する理由は、共和党支持層の間でのESG投資への関心の低さとwoke capitalismへの反感に加え、石油・天然ガス・石炭など脱炭素化で矢面に立たされる企業の後方支援が必要と考えるためでしょう。
2023年は既に米連邦債務上限問題で2011年と同様の流れを迎えていますが、2023年の共和党による反ESG運動は、2010年に成立した医療保険制度改革(オバマケア)の反動で政治トレンドと化したティーパーティー運動の再来となるのでしょうか。

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編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年3月2日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。