また、イランはIAEAの査察を制限し、未申告の核関連施設から検証された核物質について、IAEA査察官のアクセスを拒否してきた。欧米側はイランとの核合意の再建のためにイランと交渉を再開したが、ここ数カ月間、交渉は停止状態だ。イランの核開発計画は核拡散防止条約(NPT)など国際条約の違反であり、国連安全保障理事会決議2231と包括的共同行動計画(JCPOA)への明らかな違反だ。
ブリンケン米国務長官は1月29日、訪問中にアル・アラビヤ放送とのインタビューで、「イランには核合意に戻るチャンスがあったが、それを拒否した。イランの核問題では、全ての選択肢がテーブルの上にある」と語り、軍事的オプションをもはや排除しない考えを強調した。
一方、イランの核武装化を恐れるイスラエルは、「テヘランが核兵器を保有することは絶対に容認されない」と指摘、必要ならばイランの核関連施設を空爆すると警告してきた。イスラエルは2007年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破したことがある。同時に、イランで過去、同国の核開発計画に参加してきた核物理学者が射殺や爆死されてきたが、その背後にはイスラエルのモサドの工作があったといわれている。
現在、核保有国は米、英、仏、ロシア、中国、インド、パキスタン、イスラエル、それに北朝鮮だが、10番目の核保有国として最短距離にいるのはイランと受け取られている。イランの核兵器を最も恐れているのは宿敵イスラエルだが、スンニ派の盟主サウジアラビアもイラン(シーア派)の核兵器開発をただ静観していることはないはずだ。同じことが、エジプトにもいえる。イランの核兵器製造は中東・アラブ諸国に大きな波紋を投じることは必至だ。
なお、イランのIRNA通信によると、イランのアミール・アブドラヒアン外相は先月28日、軍縮会議のハイレベル・セグメントで、「JCPOAの現在の状況は、米国の政策の誤算と誤りの結果だ」と述べる一方、「イランの核計画は完全に平和的であり、それは永遠に変わらない。イランは包括的保障措置協定の下での義務に完全にコミットし続ける」と強調。同時に、「わが国に対し、次期IAEA理事会で賢明でない決定が下された場合、対抗措置を取る用意がある」と警告している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年3月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。