問題は、まさに「維持できない」かどうか? だ。

米ソ冷戦は世界経済を発展させる効果は無かったが、「(核戦争の)恐怖の均衡」を通じて世界平和を維持することには役立った。ここから「一極覇権」じゃなくても、「安定した均衡」が成立すれば、世界はとんでもないことにはならないで済むという仮説が導けるかもしれない。

そう言うと、中国が元気づいて「だからこそ、我々はICBMを急ぎ増強して、改めて「核の均衡」を成立させようとしているのだ」とか言い出すだろうか(冗談。笑)

しかし、21世紀に米ソ冷戦型の「安定した均衡」が成立することはない気がする。状況が違いすぎるのだ。

つまり、第二次世界大戦後は、枢軸国家(日独)の壊滅、勝ち組欧州も戦災で疲弊、パックスブリタニカ(の残滓)も完全消滅などにより、世界の勢力図に大きな空白が生じた。米ソは、ともにその空白をあたかも「無人荒野を行く」が如く駆け抜けて超大国になったと言えるのではないか。その意味では、米ソは最初から「均衡していた」ことも見逃せない。

いまは違う。米国の一極覇権が確立していたところに、中国の台頭・挑戦が起きているからだ。既成秩序との衝突の衝撃が第二次世界大戦後よりずっと大きい。

そんな中で米国覇権が後退するにつれて、これまで世界の平和と繁栄をそこそこ支えてきた「自由主義のグローバルな秩序」が溶解に向かいつつあることだけは、いよいよはっきりしてきたのが昨今。

そんな環境でも「平和で繁栄した世界」を維持する方法はあるはずだと言うのは簡単だが、「貧富の格差が拡大しないようにグローバリゼーションを進める方法はありえる」と言うのと同じで、うまく行きそうな気がしない。

そうじゃないかな?

編集部より:この記事は現代中国研究家の津上俊哉氏のnote 2023年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は津上俊哉氏のnoteをご覧ください。