(3)昔は顕微鏡で花粉を数えていた!? 花粉の飛散量の計測方法にも変化が

宙畑:花粉の飛散量予測の初期の計測方法と今の計測方法について、具体的にどのような手法で飛散予測をしているのかを教えてください。

ウェザーニューズ:当初、花粉の観測はビルの屋上などでプレパラートに集まった花粉を顕微鏡で数える「ダーラム法」と呼ばれる方法で行っていましたが、よりたくさんの場所でリアルタイムに情報を収集するため、花粉の自動観測が可能なIoT花粉観測機「ポールンロボ」を開発しました。

ポールンロボは、内部のファンで外気を吸い込み、レーザーセンサーで花粉を判別して、花粉数を測定します。データは1分毎にウェザーニューズに送信され、気象データと合わせて解析し、予報に用いたり「花粉Ch.」で一般向けに公開しています。

宙畑:1分毎はすごいですね! リアルタイムに情報を収集できるようになったことで花粉の飛散に関する新たな発見はありましたか?

ウェザーニューズ:花粉の飛散量は天気や気温、風といった気象条件によって変化するため、飛散量がリアルタイムにわかることで、特に飛散量が多くなったり、花粉症の症状がつらくなる条件が分析できるようになりました。

ウェザーニュースの花粉対策アラームでは、その分析結果を活用して、特に花粉症の症状がつらくなりやすい条件の時にスマホでプッシュ通知するサービスも行っています。

(4)花粉の飛散量予測データが家電や自動車、販促で使われている?

宙畑:花粉の飛散量予測データについてはAPIを公開されていますね。具体的にどのような企業が利用されているのでしょうか?

ウェザーニューズ:企業のシステムと連携が容易にできるため、飛散量と連動したエアコンや空気清浄機の先読み運転や、自動車の車載モニターへの導入など、花粉データと連動した商品開発のニーズがあります。

ウェザーニューズに聞く、花粉の飛散量予測の最前線とビジネスチャンス
(画像= 花粉情報表示画面。3Dマップでの表示も可能となっており、エリアごとに花粉の飛散量が違うことがすぐにわかります。Credit : メルセデスベンツ日本株式会社(2021〜22年に導入)、『宙畑』より引用)

また、花粉対策グッズの販促などマーケティングに使用したいというニーズもあります。

宙畑:様々な業界で花粉の飛散量の利用可能性があるというのは面白いですね。例えば、花粉の飛散量が多くなる日の前日に食糧の買いだめなどを訴求するPOPをスーパーで出すなども売上アップに繋がるかもしれないなど、今後も様々なアイデアが出てきそうです。

(5)花粉の飛散量予測、精度向上の展望は?

宙畑:今後、飛散量予測の精度アップのために、どのようなデータを取得していきたいと考えていますか?

ウェザーニューズ:前述した通り、花粉の発生源に対して、気象条件等から花粉の発生量を推定し、それを風で拡散することで予測をしています。そのため、予測精度を向上させるためには
-どこに花粉を飛ばす木々や植物があるのか、
-花粉の量はどの程度あるのか、またそれはどのような条件の時にどの程度飛散するのか?
の推定がとても重要だと思います。

宙畑:現在、花粉を飛ばす樹種や植物(発生源)はどのような情報を持たれているのでしょうか?

ウェザーニューズ:樹種については、環境省生物多様性センターの植生図を使用しています。また、ブタクサなどの植物については、サポーターからの情報を活用し、データベース化できないか等の検討を行っています。

宙畑:衛星から樹種判別を行うという事例も近年活発になっています。衛星データから花粉の飛散量予測に寄与するデータは取得できそうでしょうか?

ウェザーニューズ:花粉の発生源の特定については、衛星データは有用かと思います。

植生指数から花粉を発生させる樹種・植物の細かいセグメンテーションができれば、高解像度の予測の作成・および精度向上につながるので、有意義だと思います。

また、“花粉の飛散はいつ始まるのか?”について、正確に知ることも飛散予測では重要です。花粉の開始、ピーク、終わりのタイミングについて、植生指数など衛星から得られるデータで特定、気象要素なども併せて推測できるとなお良いと思います。

他にも、空間的に高頻度で空間的な飛散濃度情報があると嬉しいですね。特定の地点ごとの観測値は観測器で計測できますが、広域で空間的にとなると衛星データから観測できるようになることが有用です。3次元的な花粉の飛散濃度の推定などが、衛星データからできるようになったらいいなと思います。

宙畑:樹種や植物のセグメンテーションは衛星データからの分類に関する研究論文も複数出てきており、今後の進捗次第では花粉の飛散量予測に活かせるようなアルゴリズムが今後出てくるかもしれません。発生源が特定できているのであれば人がすべてのエリアを見回らずとも花粉の開始、ピーク、終わりのタイミングを知る一助に衛星データがなれるとよいなと思います。

(6)まとめ

花粉の飛散量予測の最前線について、ウェザーニューズ社に教えていただきました。

経済損失の面で語られることが多い花粉症ですが、花粉の飛散量予測データが、花粉症に悩む人の日常の支えになっていることはもちろんのこと、その上で家電や自動車、販促にも活用されているなど、経済を活性化させる一助となり始めているというのはとても面白い現象だと感じました。

そして、今や1分毎に様々なエリアで飛散量の予測がなされており、今後も予測精度が上がる余地が残されていることは花粉症に悩む方にとっても朗報でしょう。

宙畑でも花粉症に関連する衛星データの利活用については新たな解析を予定しています。衛星データの解析結果が出たらまた記事にまとめて公開いたします。

提供元・宙畑

【関連記事】
衛星データには唯一無二の価値がある。メタバース空間のゼロ地点を作るスペースデータ佐藤さんを突き動かす衝動とは
深刻化する「宇宙ごみ」問題〜スペースデブリの現状と今後の対策〜
人工衛星の軌道を徹底解説! 軌道の種類と用途別軌道選定のポイント
オープンデータ活用事例27選とおすすめデータセットまとめ【無料のデータでビジネスをアップデート! 】
月面着陸から50年!アポロ計画の歴史と功績、捏造説の反証事例