今、なぜ人的資本経営なのか
人的資本経営は、ものすごく簡単にいえば「人を大切にしましょう」といわれます。
「企業は人なり」とよくいわれもしますが、日本特有の終身雇用・年功序列を代表するような「社員に優しい」スタイルが競争力の源泉だと世界から注目されたことも確かにあったように思います。
しかし、時代も変わり、経営スタイルも変わり、働く人の価値観も大きく変わる中で、「人を大切にする」仕組み(概念)が、新たな時代には適合しなくなりました。
まさに、一人ひとりの人材と向き合い、その価値を見出し続け、伸ばす経営を実践してきたかが今問われています。
「大切にする」というのは「働きやすい職場を用意して、優しく扱う」ということではなく、「一人ひとりがもっと多くの価値を生み出せるようになる“攻めの経営”」そのものなのです。
ではなぜ、今、人的資本経営なのか。3つの視点を挙げさせていただきます。
①経済的視点
テクノロジーの急速な進歩、多様化する顧客ニーズといった外部環境の急激な変化に伴い、
今や企業価値の源泉が徐々に「有形資産」から「無形資産」に移行しました。また、別の言葉で言い換えると、「財務資産」から「非財務資産」へと移行しました。
その無形資産であり、非財務資産の中核が紛れもなく「人材」です。したがって、人材の価値を高めれば、それが企業価値を持続的に押し上げることになります。
年々、投資家の判断指標は「非財務資産=見えざる資産」を評価する傾向が強くなっています。
2008年のリーマン・ショックを契機に「財務諸表のみで企業価値を評価すること」に警鐘が鳴らされ、投資家が企業への投資プロセスにESG(環境・社会・ガバナンス)評価を導入する流れが生じ、日本でも盛んにESGといった用語が聞かれるようになりました。
アメリカでは2020年上場企業に対して、人的資本の開示が義務付けられ、財務諸表には表れない「見えざる資産」の重要性が増しています。
日本は、この欧米の後を追いかけるかたちになります。
②組織マネジメント視点
昨今、DXを含めた産業構造の転換期において、企業における「イノベーション」の必要性が各所で叫ばれています。
イノベーションと対極をなすのが、「管理」だと考えていますが、管理型マネジメントはかつては合理的であり、時代の要請からつくられた組織モデルとして機能してきたように思います。
しかし、今は「創造」こそが長期的に事業を継続させるための決定的因子になってきました。
では、その創造のための源泉は何かというと、「人の内発的なエネルギー」です。この内発的なエネルギーこそ、「ヒト・モノ・カネ・情報」の経営の主な資源の中で圧倒的に不確実性が高く、「化ける」可能性を大いに秘めています。
野心的なビジョンや社会がよくなっていくという日々の実感のもと、多様な創造性のある社員が相互の刺激を与え合うことと、何より、社員の創造性を失わず、アイデアとアイデアの突然変異を生む創造的空間へと企業はアップデートする必要があります。
③世代価値観の視点
Z世代やアルファ世代の台頭も見逃すことができません。2025年には、Z世代の労働人口が半数になるといわれています。
この時代の中で、これまでの世代とZ世代・アルファ世代が決定的に違う点は、「社会的自律」がすでにされており、感性が豊かということではないでしょうか。
②の観点と重複しますが、すでに自律している社員に対して、管理をするとどのようになるでしょうか。やはり、内発的なエネルギーは萎縮してしまいます。
なぜなら、人とは本来、「自分の思う通りに動きたいもの」だからです。自律をしているなら、尚更です。
この自律心をすでに持っている人材の獲得と、自律心を持っている社員を活かす企業側のマネジメントをアップデートすることが必要になります。