12項目の中で、1)はウクライナに軍を侵攻させたプーチン大統領への批判になる一方、「台湾の軍事的統合」を図る中国共産党政権にとっては100%歓迎される内容とは言えない。ただし、紛争の和平案という以上、加害者側の国家主権蹂躙を指摘せざるを得なかったわけだ。6)のロシア軍の戦争犯罪行為を想起するならば、ロシア側にとっては歓迎されない項目だ。和平案では、民間人を安全な場所に連れて行くための人道的回廊の確立、および穀物輸出を確保するための措置も求めている。その一方、10)の「一方的制裁の中止」はロシアの願いに沿う内容だ。
中国の習近平国家主席は中国外交のトップ、前外相の王毅・共産党政治局員を第59回「ミュンヘン安全保障会議」(MSC)、ハンガリー、そしてロシアに派遣し、世界に向かって中国のウクライナ和平案を提示する考えを示唆し、大国・中国の存在感を誇示しようと腐心している。一方、ゼレンスキー大統領は23日、中国の和平計画について、「北京で政府関係者と話し合いたい。私はまだ和平案の文書を見ていない」と指摘、「中国がウクライナについて話し始めたことは原則として良いことだ」と述べている。
中国の12項目の和平案をみると、覇権争いをする米国を意識した内容がある。2)はその代表だ。中国の発展を阻止し、人権問題などで干渉し、圧力を行使する米国への批判だ。それを中国側は「冷戦の思想」と呼んでいる。10)の制裁の解除要求はロシアへの西側の経済制裁だけではなく、中国への制裁解除要求と受け取れる。
中国はロシアにとって数少ない緊密なパートナーシップを維持している国だ。中国はウクライナ戦争でも可能な限り中立を守り、ロシアの侵略を批判する言葉を避けてきた。西側諸国がウクライナに武器を供給していることに対しも、「火に油を注いでいる。戦争を意図的にエスカレートさせている」と繰り返し非難してきた経緯がある。
ウクライナを支援する欧米諸国は中国がロシアに軍需品などを支援するのではないかと懸念している。そのため、ブリンケン米国務長官は「中国のロシアへの武器支援が発覚すれば、厳しい制裁を科す」と警告してきた。
北京にとって、対北米貿易はロシアとの経済関係を上回るものだから、ロシアに武器支援をし、米国から更なる厳しい経済制裁を受ければ、中国経済にとって大きなマイナスとなることは明らかだ。北京はそのリスクを犯してまでロシアを支援するだろうか。独週刊誌シュピーゲルは、ロシアが既に中国と無人機について交渉していると報道している。
いずれにしても、中国発の和平案に対し、プーチン氏の反応が注目される。なお、ドイツのショルツ首相は23日、中国のウクライナ和平仲介に対して、「幻想を抱くべきではない」と警告を発している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。