「政治家にはオフレコなし」

そもそも毎日新聞は言い訳記事を書く必要があったのか? というのが筆者の考えである。権力から情報を取るのが政治部記者だと定義されるなかで、毎日はそうした癒着とは一線を画す覚悟を持って記事を出したはずだ。本来的には「書いた記事がすべて」でいいはずで、余計な経緯説明をするという行為自体が、政権と政治部記者の異常な関係性を改めて浮き彫りにしてしまっているのではないのか。

筆者の週刊誌時代は「政治家にはオフレコなし」と先輩から教わってきた。政治家はその全人格が評価されるべき公人であり、あらゆる発言を書かれる可能性があるとともに、自らの発言の意味を理解し責任を持つというのも政治家の重要な資質の一つである、という考え方だ。この場合は、官邸の秘書官も「準公人」と考える。荒井氏は秘書官であり、政治家ではないが、影響力を持ちうる立場にあるということで公人的な扱いをして良いだろう。

週刊誌では長らくオフレコ記事をメイン記事の一つにしてきた。有名なのは2003年に「週刊文春」(文藝春秋)が報じた『太田誠一より悪質! 福田官房長官「レイプ擁護」スッパ抜く 「僕だって誘惑されちゃうぞ」 オフレコ会見、女性記者猛反発「全録音」』という記事だ。早大生集団暴行事件(スーフリ事件)についての福田康夫官房長官(当時)の仰天発言をスッパ抜いたもの。同年には同じく「文春」で『舛添厚労相「3年で年金記録照合」はいつもの大言壮語 オフレコメモ「成蹊とか学習院出身者に国のトップは無理」』という記事も発表されている。これは当時、厚労相として人気急上昇中だった舛添要一氏が、安倍氏や麻生氏の学歴を揶揄した記事として話題を呼んだ。

オフレコ記事の醍醐味は、その政治家や官僚の本性が垣間見られるところにある。週刊誌はオフレコなし、新聞記者はオン・オフを使い分けるというなかで、果敢にオフレコ破りに踏み切った毎日新聞が今後どのような報道を展開していくのかには注目が集まるところだろう。筆者としては、毎日新聞が記者クラブ的な不自由な報道の枠組みから抜け出す大きなチャンスではないか、と期待をしたいところだが、現実には何も変わらないというところに落ち着くのではないかという想像もできる。

岸田政権、「多様性」への無理解

一方で、今回の毎日新聞報道の価値を改めて検証すると、記事によって岸田政権および官僚サイドには「多様性」というものへの理解がない、ということを改めて浮き彫りにしたということであろう。

木原誠二官房副長官は、荒井氏の発言について「あってはならない発言だと思う。きわめて深刻に受け止めている」と述べたうえで、多様性を尊重することによって包摂的な社会をつくることに一貫して取り組んできた岸田政権の方針と「まったく相容れない」と語った。しかし、同性婚制度に関し岸田首相は「わが国の家族のあり方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と述べたように、岸田政権が多様性を尊重する方針だとは認めがたいというのは衆目の一致するところ。

さらにいうと、首相秘書官に長男を縁故採用するという人事も、一般的には「縁故採用は同質な人間が増えやすく、多様性という価値観に逆行するもの」と見られる。実際に荒井秘書官は即座に更迭されたが、外遊期間中にパリで公用車を使って観光した問題などが指摘された岸田翔太郎氏についてはお咎めなしのまま、となっている。

つまり、岸田首相自身は首相という立場と長男を守ることしか考えていない、ということが今回のオフレコ騒動からも浮き彫りになったのだ。トカゲの尻尾切りを続けているようでは多様性ある社会の構築などは土台無理ということが明らかになった騒動だった、ともいえるだろう。

(文=赤石晋一郎/ジャーナリスト)

提供元・Business Journal

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