また、10年間の全生存率(がんによる死亡だけではなく、他の死因も含めた死亡を含めた全体の生存率)は放射線なし群80.8%と放射線あり群80.7%と全く差がなかった。乳がんではホルモン療法以外にも多くの治療法があるので、局所再発率が10倍高くとも、10年生存率で見ると差がなくなってしまうようだ。
同時に「Overcoming Resistance-Omission of Radiotherapy for Low-Risk Breast Cancer」という論評も書かれているが、そこでは、70歳以上でその他は同じ条件のCALGB9343の結果も紹介されており、局所再発率は放射線なし群で9%、あり群で2%だったそうだ。放射線療法は局所再発を抑制することは確実なようだ。
女性ホルモン受容体を発現しているがん細胞の割合・Ki67と呼ばれている細胞分裂の指標など、さらにさまざまな指標を加えて、放射線療法をする必要のない群を絞り込む可能性なども紹介されていた。
9.5%対0.9%という数字で比較されるものの、患者さん個人にとっては再発はあるかないかの、100%と0%である。この局所再発をした人では、局所にがん細胞が潜んでいるはずなので、それを見つける方法が確立できれば、基本的には放射線療法をしなくていいはずだ。がん細胞の血管やリンパ管への浸潤などが指標になるかもしれない。また、遠隔転移をした患者さんは術後すぐか、もっと遅い時点かわからないがリキッドバイオプシーなどが有用な判断につながるかもしれない。
命を守り、生活の質を維持し、副作用を避け、できる限り、個々の患者さんに応じた治療を提供するための方策を考えていってほしいものだ。今より一歩進むことを考えるのではなく、理想に近づけるための戦略が必要だ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。