厚生科学審議会の資料には、病理医の意見に反してなぜ判定としたかのコメントが掲載されているので、手がかりとなる。
F1247:心筋炎に関しては市中感染症などを契機として自然発生することが知られている疾患であり、ワクチンによる心筋炎なのか、ワクチンとは関係の無い自然発生した心筋炎 なのかを判別することは困難である。以上から、ワクチンとの因果関係をありと判断することはできないと考えた。
F1332:心筋炎の診断自体については妥当と考えられる。その一方で、突然死で発見された症例であることから、心筋炎による死亡を示唆するような心機能の低下や不整脈等を示唆する客観的所見はなく、かつ心筋炎の原因についてもウイルス性等の可能性も否定しえないことから、ワクチンとの因果関係を積極的に疑うには情報が不足している。
F1501:心筋炎は市中感染症などを契機として自然発生することが知られている疾患であり、ワクチンによる心筋炎なのか、ワクチンとは関係の無い自然発生した心筋炎なのかを判別することは困難である。以上から、ワクチンとの因果関係をありと判断することはできないと考えた。
心筋炎であることは認めるが、心筋炎は市中感染症によっても起こることもあるので、ワクチンが原因とは言えないという主張である。ワクチン接種と副反応との因果関係を立証するにあたって以下の4つの原則が提唱されている。
1)ワクチン接種と副反応とが、時間的、空間的に密接している。 2)他に原因となるものが考えられない。 3)副反応は質的にも量的にも重大である。 4)副反応の発生メカニズムが、科学的に実証性や妥当性がある。
ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎はその80%は接種後5日以内に発症しており、十分に1)の要件を満たしている。3)、4)の要件も満たしている。
しかし、専門家のコメントに従うと、市中感染が原因となることもあるので、ワクチン接種が直接的な原因であることを示す必要がある。先月、Circulationという循環器分野では最も権威ある医学雑誌に、心筋炎とワクチン接種との直接的な関係を示唆する有力なバイオマーカーに関する論文が掲載されたので紹介する。
コロナワクチンは、スパイクタンパクの設計図となるmRNAを脂質の膜で包んだものであり、接種すると細胞内に取り込まれてスパイクタンパクを産生する。
今回の研究で、ワクチン接種後に心筋炎を発症した患者の血液中には、遊離スパイクタンパクが検出されることが判明した。一方、コントロールとしての心筋炎を発症してないワクチン接種者には遊離スパイクタンパクは検出されなかった。
試験管内の実験で、スパイクタンパクが心臓周皮細胞の機能不全や内皮細胞の炎症を起こすことは知られており、スパイクタンパクが心筋炎の原因になることは十分考えられる。心筋炎を発症した患者は、ワクチン接種から1〜19日後(中央値:4日)に採血されている。心筋炎を発症した16人のうち13人(81%)に、遊離スパイクタンパクが検出されている。

図3 ワクチン接種後の心筋炎患者の血液中にはスパイクタンパクが検出される!Circulation,2023;147
この研究では、ワクチン接種後19日以内に発症した心筋炎の80%において、ワクチン接種との因果関係が示された。本研究の対象は若年層であるが、日本のワクチン接種後に発症した心筋炎についても同様の手法で調査した場合、ワクチン接種が原因の症例がないとは考え難い。
今後は、心筋炎における遊離スパイクタンパクのようなバイオマーカーを発見することにより、ワクチンと副反応との因果関係を科学的に立証できるようになるであろう。