安倍氏の応援団がいう「副作用があったとしてもアベノミクスは成功」は、国内でしか通用しない議論です。ドル建てで国際を比較しますから、アベノミクスが推し進めた円安がまず大きな原因です。異次元緩和開始時の1ドル=80円が昨年10月に150円(最近は135円)に円は下落しました。
さらに財政金融の超膨張、超緩和政策が甘えの構造を作り、日本の構造改革を遅らせてしまったというのが経済分析の共通認識になってきました。「成長なくして財政再建なし」ではなく、「アベノミクスが財政再建をますます困難にした」という結末なのです。
安倍氏は海外首脳と緊密な個人的な関係を築きました。首相になったら最も重要な仕事のひとつです。中でもトランプ米大統領、プーチン露大統領との関係は濃厚でした。それは誰もが認めます。
その結果はどうだったか。明白でしょう。トランプは米国の分断を深くしたばかりでなく、米議会に支持者らが侵入するよう扇動し、まるで民主主義を破壊するような行動にでました。
プーチンの行動は、もっと破壊的なウクライナ侵略(クリミヤ占領は14年)をやっています。回顧録はそのことに触れていない。北方領土も返還はもうほとんど不可能というラインに後退しています。
回顧録で印象に残ったのは皇族問題です。「女性宮家は、母方が天皇の血を引く女系天皇につながっていく危険性がある。男系男子に限った皇位継承を変えるべきではない。何百年、千年という尺度で考えなければならない」と明快です。「危険性」という激しい言葉も使っています。
男系男子に限った天皇制を死守していけば、皇室は途絶えてしまう。次は秋篠宮、その次は悠仁親王と先細りします。悠仁親王が結婚して将来、男子が生まれなかったら、そこで皇統は途絶えます。百年先もみていない。
回顧録は遠慮のない主張、表現にあふれ、読み物としても楽しめます。これらを参考にして、安倍政権をどう評価するという政治論、経済政策論が展開されるよう期待します。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。