
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
ジョナサン・ミラー演出の新国『ファルスタッフ』は約4年ぶり5回目の上演。今年に入って新国では『タンホイザー』と『ファルスタッフ』を立て続けに観たが、この二つのオペラをこの順番で上演するなんて、最高だなと思った。
どちらも男の性愛についての(?)オペラで、前者はエロスの欲を究めたことで罪悪感と社会的制裁によって自滅し、後者は自分の欲望のままに生き嘲笑されても蔑まれても「屁でもねーよ」と高笑いしている。主演はどちらも体格の立派な歌手で(タンホイザーはテノールで、ファルスタッフはバリトンだが)、歌詞の中で愛についての箴言のようなことを語る。
『タンホイザー』の歌手たちは皆立派だったが、ワーグナーの描いた物語はあまりに男が可哀想で(最後に救済はあるが)泣けてしまった。同じ年に生まれたワーグナーとヴェルディでは、ヴェルディのほうが20歳近く長生きしたが、『ファルスタッフ』の境地へ到達できたのは、寿命と大いに関係があるのかも知れない。

撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
ファルスタッフ役のイタリア人バリトン、ニコラ・アライモが最高の演技だった。1978年生まれで、インタビューによるとファルスタッフを初めて歌ったのは16年前だという。女たちからビア樽扱いされる巨体の老人の役を、それほど詰め物をしていると思われない立派な身体で勢いよく演じる。