政府は、「正当防衛か緊急避難でなければ武器の使用はできない」としてきた従来の解釈を変更すればよい、との見解のようですが、軽々に解釈の変更に頼るべきではありません。「航空機」を「航空機等」に変え、「これを着陸、退去させるため、又は排除するために」と第84条を改める方が正道だと思います。

領空侵犯措置は、その解釈についてまだ議論が確定していないところもあり、スクランブルに上がった自衛隊機は、指示に従わずに領空侵犯を続ける相手方の航空機を撃墜できるのか、その判断は誰がどのような権限において行うのか、等をこの際明確にしておくべきです。

物理面でいえば、空気の薄い2万メートル近い高高度まで上昇して気球を撃墜するようなミッションが可能なのはエンジンを二つ搭載した戦闘機に限られると言われており、日本にはそのような機体はF-15Jしかありませんし、そのような高空でのミッションにパイロットが生理的に耐えられるのかについても検証が必要です。

アメリカ空軍が今回の気球撃墜にF-22ラプターを使い(これはアメリカしか保有していません)、F-15や高高度偵察機U-2、空中給油機なども随伴させて、大々的な作戦を展開したことの軍事的な意味をよく分析しなければなりません。

「中国は怪しからん、毅然として断固撃ち落とせ」というのは勇ましくて恰好はいいかもしれませんが、我が国はF-22もU-2も保有していませんし、高高度訓練もしないままにいきなり撃墜命令を出すのはあまりに無謀です。

外交的なリスクも含め、考えれば考えるほど安全保障とは難しいもので、自分の理解の浅薄さと能力不足を改めて思い知らされます。残された時間の少なさに慄然とするばかりですが、諦めることなく努力し、一歩でも前に進めるのが政治の責任です。

昨日の予算委員会は中央公聴会でした。中でも安全保障に関する北岡伸一・東大名誉教授、川上高司・拓大教授、経済財政・金融政策に関する小幡績・慶大院准教授の意見陳述は、実に内容の濃い見事なものでしたが、テレビ中継もなく、時間も短かったのは残念なことでした。

年明け以来、週末はすべて講演や統一地方選挙を控えた県内外への選挙応援で埋まり、まる一日お休みの日が全くありません。時節柄、やむを得ないことではあるのですが、思考が深まることなく恐ろしく散漫になってしまい、これはまずいと痛感しております。

「待て暫し、やがて汝もまた憩わん」とゲーテは言ったそうですが、いつかそのような日が来るのでしょうか。

まだまだ寒い日々が続きそうです。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

予算委員会が行われている国会議事堂第1委員会室 参議院HPより

編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2023年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。