英国でも少しずつ返還の動きが広がっている。2021年10月には、ケンブリッジ大学ジーザス・カレッジが、ベニン・ブロンズの一つである青銅彫刻をナイジェリア当局に返還し、スコットランドのアバディーン大学もこれに続いた。
2022年8月7日、ロンドンのホーニマン博物館が旧ベニン王国由来の工芸品72点を返還すると発表し、これにもベニン・ブロンズが含まれる。ナイジェリアからの返還要求を受けた博物館は、地元住民や来場者、専門家などからの意見を参考にしたうえで、「暴力的に奪い取られた」ものであることを確信。「返還することが道徳的で適切」という結論に達した。
8月20日にはグラスゴーのケルビングローブ美術館・博物館で、同市の複数の美術館を運営する慈善組織「グラスゴー・ライフ」とインド政府の代表者とが、19世紀にインドのヒンドゥー教寺院から英国が違法行為によって持ち出した工芸品7点を返還するための調印式を行った。違法手段で取得したインドの工芸品を現在の正統な所有者に返還するのは、英国ではグラスゴーが最初だ。
グラスゴー・ライフの博物館収集部門を統括するダンカン・ドーナン氏によると、「1998年以降、地元住民の声を聞きながら50以上の文化財を真の所有者に返還してきた」。今回の返還は「グラスゴーにとって大きな一歩になる」。
スコットランドの中でグラスゴーは移民出身者の比率が12パーセントと最も高く、常に地域住民との対話を通して返還するべきかどうかを決めてきたという。インド以外では、北米先住民族由来の文化財を米サウスダコタ州に返還するほか、ベニン・ブロンズの19点も返還予定となっている。
エルギン・マーブルの返還については、近い将来、動きがあるかもしれない。1月、大英博物館のジョージ・オズボーン館長(元財務相)とギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相がエルギン・マーブルのギリシャへの返還に向けて、話し合いを進めているという報道が出てきたのだ。
これに対し、1月11日、当時の文化相のエルギン・マーブルは英国に所属する、と改めて発言している(BBCニュース、1月13日付)。
大英博物館の広報担当者は、ギリシャ側との「長期的なパートナーシップを検討中」としている。
17世紀初頭から世界各地に植民地を所有したオランダは、2020年10月、自国が所有する植民地起源の文化財について、住民の合意がない持ち去りは「不正義」であり「無条件に」返還するべき、という報告書を出している。
このように一連の文化財を元々の国に戻すべきだという考え方がある一方で、「正当な所有物である」という立場から返還には応じない博物館や美術館もある。皆さんはどう思われるだろうか。
筆者は「オリジナルの正統な所有者あるいはその代表者」から返還願いが出た時、話し合いを開始するべきではないかと思っている。一律に返還するべきというのではなく、まずは話し合いである。
(在英日本人向け雑誌「英国ニュースダイジェスト」に掲載された、筆者コラム「英国メディアを読み解く」に補足しました。)
編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2023年2月18日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。