大英博物館を訪れると、世界中から集められた貴重な美術品やそのほかの文化財が展示されている。英国に旅行された方は、1度は足を踏み入れたことがあるのではないだろうか。

大英博物館の展示品の中でも特に多くの人が訪れるのが、古代ギリシャのパルテノン神殿に飾られていた大理石彫刻「エルギン・マーブル」だ。19世紀初頭、英国の外交官エルギン伯爵がオスマン帝国支配下にあったギリシャの神殿から持ち帰り、英政府が買い取った。

大英博物館 Michael Mulkens/iStock

ギリシャ政府は一連の彫像を「略奪された」として返還を求めているが、大英博物館は、彫像はオスマン帝国との合法的な契約のもとに取得したとして要求に応じていない。

近年、欧米各国では旧植民地に起源を持つ、略奪など違法行為によって取得した文化財を返還する動きが広がっている。奴隷制や植民地支配の負の遺産を見直す流れの一つともいえる。

昨年11月、フランスは旧植民地西アフリカのベナンから129年前に戦利品として持ち帰った26点の美術品を返還した。現在ユネスコの世界遺産に認定されているアボメイ宮殿に所蔵されていた宝物だ。ベナンは以前から美術品の返却を求めていたが、2017年、エマニュエル・マクロン仏大統領がアフリカの文化財返却に踏み切ると表明し、法整備を進めてきた。

同じく21年にはドイツが現在のナイジェリア南部沿岸にあった旧ベニン王国から略奪された「ベニン・ブロンズ」と呼ばれる美術品の返還に動き出した。19世紀に英国が略奪した数千点のベニンの美術品は、欧米各国の博物館や個人の収集家に買収されていたという。

ベニン・ブロンズ(Benin Bronzes) ナイジェリア南部に存在した旧ベニン王国由来の数千点の美術品で、青銅、真ちゅう、象牙などのレリーフや像のこと。1897年の英国外交官殺害事件をきっかけに英軍の侵攻を受け、「戦利品」として英国に持ち去られた。同王国は後に英領ナイジェリア植民地に併合。ナイジェリアのエド州ベニンシティに新設される「エド西アフリカ美術館」では、欧米各国から返還あるいは貸与されたベニン・ブロンズを常設展示する。