1)ドイツの脱原発は2000年代初頭のSPDと「緑の党」の最初の連合政権下で始まった。それだけに「緑の党」だけではなく、SPDにも原発操業の延長には強い抵抗がある。一方、産業界を支持基盤とするFDPは3基の来年以降の操業を主張するなど、SPD、「緑の党」、そしてFDPの3党の間で熾烈な議論が続けられてきた。ショルツ首相は「緑の党」とFDPと交渉を重ね、2022年10月17日夜、首相の権限を行使し、2基ではなく、3基を今年4月15日まで操業延長するというガイドラインを提示、そのための法的整備を関係閣僚に命じた。

2)ショルツ連立政権は昨年10月26日、ドイツ最大の港、ハンブルク湾港の4カ所あるターミナルの一つの株式を中国国有海運大手「中国遠洋運輸(COSCO)」が取得することを承認する閣議決定を行ったが、同決定に対し、「中国国有企業による買収は欧州の経済安全保障への脅威だ」という警戒論がショルツ政権内ばかりか、欧州連合(EU)内からも聞かれた。特に、緑の党とFDPは強く反対したが、ショルツ首相が最終決定を下した。

ここにきて緑の党のハベック経済相(兼副首相)とFDP党首のリンドナー財務相との関係が気まずくなってきている。ハベック経済相とリンドナー財務相間のコミュニケーションが難しくなり、文書で要求するだけで、互いに対面で意見の交換をしない、といわれるほどだ。ドイツ公共放送局「ドイチュランドフンク」は16日、「両者は相手宛てに怒りの手紙を書くなど、連合の雰囲気は毒されてきている」と報じている。

理由は明確だ。FDPはベルリン市議会選(2月12日実施)で敗北し、党内からリンドナー党首へ党の政策をもっと全面的に主張すべきだという声が一段と高まってきているのだ。FDPは、政権発足後の5つの州議会選挙のうち3つで議席獲得に必要な5%のハードルを越えることができず、残り2州でも得票率が急減した。

ハベック経済相がリンドナー財務相に「財政ではもっと創意工夫するべきだ」と要求すると、「エネルギー供給のために新しい送電線を建設するが、そのために先ず新しい道路を建設しなければならない」と、FDP側から巨額の資金が必要となるグリーン・プロジェクトに対して不満の声が飛び出す。また、ウクライナ戦争で防衛費が急増、国内総生産(GDP)比2%をはるかに超える可能性が出てきた。そこにピストリウス新国防相は「2024年までにさらに100億ユーロが必要となる」と求めているが、どこから財源を獲得するかが大きな問題となるわけだ。

党の独自色を出すためにリンドナー財務相は今後、減税、規制緩和を進める一方、不法移民対策の強化など右派的な政策を訴えてくるかもしれない。そうなれば、SPD・緑の党との連立政権の運営にも支障が出てくることが予想される。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。